厚生労働省の「介護保険施設等指導指針」(「介護保険施設等の指導監督について(令和4年3月31日厚生労働省通知)」別添1)では、次のとおり、介護報酬請求を除く運営指導の実施に当たっては、標準的な「確認項目」と「確認文書」に基づいて実施することが示されています。
運営指導の実施に当たっては、基準等への適合性に関し、介護保険施設等による自己点検を励行するものとし、上記(1)ア及びイ【編注:報酬請求に係る指導を除く介護サービスの実施状況に係る指導・最低基準等運営体制に係る指導】については、介護サービスの質の確保、利用者保護等の観点から重要と考えられる標準的な確認すべき項目(以下「確認項目」という。)及び標準的な確認すべき文書(以下「確認文書」という。)に基づき実施する。
そして、各サービス種別ごとの「確認項目」「確認文書」が、「介護保険施設等運営指導マニュアル」(令和4年3月)の別添1に書かれています。
また、こうした標準的な「確認項目」「確認文書」を定めた理由については、「介護サービス事業者の増加や自治体間での確認項目や実施状況の差異の解消のため、運営指導の標準化や効率化を図る必要があり、それにより多くの事業所に対して運営指導を行うことでサービスの質の確保や利用者の保護を図ること」とされています。
つまり、自治体間での運営指導の内容のばらつきをなくすとともに、運営指導の全体の実施率を上げるために、重点的に確認するものをパターン化して、それほど時間をかけずにより多くの事業所の運営指導を行ってもらおうという狙いがあります。
では、各自治体がこの「確認項目」と「確認文書」に基づいて運営指導を実施した場合に、何か問題は生じないのでしょうか? 実は・・・
以下、「訪問介護」の場合を例に、基準の項目ごとに、疑問に思う「確認項目」と「確認文書」を抜き出すことにします。
①心身の状況等の把握(第13条)、居宅介護支援事業者等との連携(第14条)
【確認文書】
・サービス担当者会議の記録
「サービス担当者会議の記録」があることが前提となっていますので、その記録がない場合、指導(指摘)が行われることになってしまいます。
しかし、基準では、サービス担当者会議の記録の入手や作成は義務付けていません。
一方、居宅介護支援事業所の運営基準では、居宅介護支援事業所にサービス担当者会議の記録の整備を義務付けていますが、当該記録を居宅サービス等の担当者に交付することまでは義務付けていません。
ケアマネによっては、任意で、サービス担当者会議の記録を居宅サービス等の担当者に提供している場合があるようですが、すべてのケアマネが行っている訳ではありません。
居宅サービス等の担当者としては、サービス担当者会議に出席して、必要があれば独自に記録を残す場合もあれば、残さない場合もあるというのが実態です。
②緊急時等の対応(第27条)
【確認項目】
・緊急時対応マニュアル等が整備されているか
【確認文書】
・緊急時対応マニュアル
これも、「緊急時対応マニュアル」を定めていないと、指導(指摘)が行われることになりかねませんが、基準では、そういったことは定めていません。
基準では、利用者に病状の急変が生じた場合に、運営規定に定める緊急時の対応方法に基づいて、主治医への連絡等の措置を義務付けているに過ぎません。
なお、自治体によっては、「緊急時対応マニュアル」の整備を推奨している場合があるかもしれませんが、条例で規定していなければ、「緊急時対応マニュアル」の未整備についての指導(指摘)レベルは、「助言」にとどまるものです。
③衛生管理等(第31条)
【確認項目】
・感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための対策を講じているか
・感染症又は食中毒の予防及びまん延の防止のための対策を検討する委員会を 6 か月に1 回開催しているか【確認文書】
・感染症及び食中毒の予防及びまん延防止のための対策を検討する委員会名簿、委員会の記録
・感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための指針
・感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための研修の記録及び訓練の記録
令和3年度の改定で全てのサービス種別に盛り込まれた「感染症の予防及びまん延の防止のための措置」には、そもそも「食中毒」は含まれていません。
また、それ以外の従前からある「衛生管理等」の基準にも、「食中毒の予防・まん延防止」は規定されていませんので、これは、明らかな記載誤りと考えられます。
訪問介護で調理をすることがありますので、「食中毒の予防」が含まれていても不自然ではありませんが、基準には明記されていません。
居宅サービスの基準通知で、「食中毒の発生防止」が記載されているサービス種別は、通所介護、通所リハ、短期入所生活介護、短期入所療養介護のみです。
④事故発生時の対応(第37条)
【確認文書】
・事故対応マニュアル
これも、基準では、「事故対応マニュアル」の整備は義務付けていません。基準では、事故が発生した場合の対応方法について、あらかじめ定めておくことが望ましいと規定しているに過ぎないものです。
自治体によっては、「事故対応マニュアル」の整備を推奨している場合があるかもしれませんが、条例で規定していなければ、「事故対応マニュアル」の未整備についての指導(指摘)レベルは、「助言」にとどまります。
以上が、「訪問介護」での「確認項目」「確認文書」のうち、運営基準や基準通知に規定していない内容が含まれている主なものです。
いずれにしても、基準とは異なる内容が書かれていますので、基準そのものを正しく理解しないまま、これに基いて運営指導が行われてしまうと、基準の適合性を確認する運営指導そのものが、逆に「不適合な(不適切な)」指導になってしまう懸念があります。