介護サービス基準のパズル

介護サービスの基準・解釈通知・Q&Aを読み解く ~まずは「訪問介護」の基準から~

運営指導での「助言」の意味合い

 介護サービス事業所に対する都道府県・市町村(東京23区)による運営指導が終了すると、当日、担当者から、結果の概要について口頭で講評が行われる場合が多いようです。

 また、正式には、後日、運営指導の結果が文書で通知されます。その結果通知には、人員・設備・運営基準で改善が必要な事項がある場合や、介護報酬の算定要件についての理解不足から不適切な請求が認められた場合などには、その指導内容が記載されています。

 運営指導の結果に基づいて行う指導について、自治体によっては、その指導のレベルを、「文書指導(文書指摘)」とするもの、「口頭指導(口頭指摘)」とするもの、「助言」とするものといった区分を設けている場合があります。

 指導のレベルの区分については、「介護保険施設等運営指導マニュアル」(厚生労働省・令和4年3月)のp53~54でも整理されていますが、基本的な要件は次のとおりです。

【文書指導】 法令や基準等に規定した事項に違反している場合

【口頭指導】 違反しているが、「その程度が軽微な場合」又は「文書指導を行わなくても改善が見込まれる場合」

【助言】 違反していないが、今後も違反のないよう、適正な運営に資するものと考えられる場合

 「文書指導」や「口頭指導」で指摘を受けた事項については、法令や基準等に規定した事項に違反していることが明らかであるため、適合するように改善を行う必要があります。

 では、「助言」はどうでしょうか? 「助言」で指摘された事項については、「助言」のとおりに改善や見直しを必ず行う必要があるのでしょうか?

 事業所側からすれば、「文書指導」であっても、「口頭指導」であっても、「助言」であっても、自治体から指導されることは、すべてそのとおりに改善や見直しを行わなければならないと理解するのは、通常のことだと思われます。

 したがって、「助言」が、必ずしもそのとおりに対応しなくてもよく、事業所側の判断に委ねられる余地があるのであれば、そのことを明確にしておく必要があります。

 このことについて、社会福祉法人に対する指導監査での「助言」の取扱いと比較して考えてみます。

 厚生労働省が、社会福祉法人の指導監査を行う基準として定めた「社会福祉法人指導監査実施要綱」(社会福祉法人指導監査実施要綱の制定について(平成29年4月27日厚生労働省通知)の別添)でも、指導監査の結果に基づいて行う法人への指導のレベルが、同様に「文書指摘」「口頭指摘」「助言」に区分されています。

 そして、法令又は通知等の違反が認められない場合に、「法人運営に資するものと考えられる事項についての助言を行うことができる」と記載しています。

 さらに、注目すべきは、同要綱の別紙「指導監査ガイドライン」で、「助言」の取扱いについて、「なお、助言を行う場合は、法人が従わなければならないものではないことを明確にした上で行うこと」と明記しています。

 これは、社会福祉法人の自主性及び自律性を尊重する観点から、この「なお書き」を追記したものと思われますが、これを最初に目にしたときは、なるほどと感心したことを覚えています。

 もっとも、「社会福祉法人に対する指導監査」と「介護サービス事業所に対する運営指導」では、その法的位置付け【注】は異なりますので、単純な比較はできないのかもしれませんが、介護サービス事業所に対する運営指導での「助言」についても、同様に、「事業所が従わなければならないものではないことを明確にした上で行う」ことが必要ではないかと考えます。

【注】

・介護サービス事業所に対する運営指導の根拠 介護保険法第23条・第24条第1項:行政手続法第32条に基づく「行政指導」

・介護サービス事業所に対する監査の根拠 介護保険法第76条第1項など:行政処分が可能となる「立入検査」

・社会福祉法人に対する指導監査の根拠 社会福祉法第56条第1項:行政処分が可能となる「立入検査」

 

【参考】

■介護保険施設等運営指導マニュアル(厚生労働省・令和4年3月)(抜粋)

Ⅰ 基本編 / 第1章 介護保険制度における指導監督 / 第2節 指導の目的

2 指導は行政指導

 指導とは、文字通り行政が行う指導、つまり、行政手続法(平成5年法律第88号)(以下「行政手続法」という。)第32条に基づく行政指導であり、行政機関が相手方に一定の作為又は不作為を行わせようとする行為です。
 行政指導は、法律上の拘束力を有する手段によって求める内容を実現しようとする処分行為ではなく、あくまで相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることから、強制力はありません。介護保険施設等の側に運営基準違反や介護報酬の不正請求等が認められる場合又はそのおそれがある場合は、監査を行い違反等の事実関係を明確にした上で、運営基準違反や介護報酬の不正請求等が認められる場合は、公正かつ適切な措置として、勧告又は指定取消等の行政処分を行う必要があります。
 なお、行政手続法第32条第2項の規定により、行政指導に従わなかったことのみを理由に行政処分(不利益処分)を行うことはできないことに留意する必要があります。 

 

Ⅱ 実践編 / 第3章 運営指導の実施 / 第7節 運営指導実施後の対応

2 結果通知・指導方法

 運営指導の結果は特段の改善事項がない場合でも通知するようにします。また一般的には文書指摘や口頭指摘というようにそれぞれの行政機関において一定の考え方の下で整理、運用されていると思いますが、それらの考え方についておおむね次のとおり整理しましたので参考としてください。(参考:社会福祉法人指導監査実施要綱)

 文書指導又は口頭指導を行うにはその根拠が必要です。また、助言、つまりアドバイスですが、これについては、法令等の直接的な根拠は不要ですが、なぜそのような助言を行うのかについての説明が必要です。言い換えれば、どうやったらその法令等の条項が守れるかということについてアドバイスするということになります。
 行政機関によっては、文書指導は行うが口頭指導は行わないとしている場合や、口頭指導や助言に該当するものであっても、文書でその旨とその内容を通知する場合など、実際の運用に違いはあると思いますが、いずれの行為も行政指導ですので、行政指導を行うからにはその根拠や相手方への丁寧な説明が必要です。根拠のない行政指導は指導担当者の主観的なその場の思い付きとも捉えられかねないので十分注意しましょう。
 また、運営基準やそれに基づく確認項目及び確認文書において、他法に関するものがありますが、何らかの不備があり文書指導又は口頭指導を行う場合は、あくまでも介護保険法の中で、つまり運営基準等で規定している内容までの範囲で改善指導を行うことができると考えます。例えば、消防法違反や労働基準法違反等の疑いが認められた場合は、介護保険法だけでは問題を解決できないので、消防署、都道府県労働局や労働基準監督署等へ通報することになります。

■社会福祉法人指導監査実施要綱(厚生労働省:平成29年4月27日)(抜粋)

 指導監査の結果及び改善状況の報告
(1) 指導監査の結果に基づいて行う法人への指導は、以下のとおり実施する。
  法令又は通知等の違反が認められる場合
 (ア)違反が認められる事項については、原則として、改善のための必要な措置(以下「改善措置」という。)をとるべき旨を文書により指導すること(文書指摘)。また、改善措置の具体的な内容について、期限を付して法人から報告をさせ、所轄庁が必要と認める場合には、法人における改善状況の確認のため、実地におい
て調査を行うことができること。
 (イ)違反の程度が軽微である場合又は違反について(ア)の指導を行わずとも改善が見込まれる場合は、口頭により指導すること(口頭指摘)ができること。
  法令又は通知等の違反が認められない場合
  法人運営に資するものと考えられる事項についての助言を行うことができること。
 なお、アの(イ)及びイの指導を行う場合は、法人と指導の内容に関する認識を共
有できるよう配慮する必要がある。
(2) (1)の指導に際しては、常に公正不偏かつ懇切丁寧であることを旨とし、単に改善を要する事項の指導にとどまることなく、具体的な根拠を示して行うものとする。また、法人との対話や議論を通じて、指導の内容に関する真の理解を得るよう努め、自律的な運営を促すものとする。

■(社会福祉法人指導監査実施要綱 別紙) 指導監査ガイドライン(抜粋)

<指導監査ガイドラインの留意事項について>

○ ガイドラインの運用に関しては、次の事項に留意することとする。

1 実施要綱の5の(1)に定める文書指摘、口頭指摘又は助言については、指摘基準【編注:法令又は通知等の違反がある場合に文書指摘を行うこととする基準】に定めるものの他、次の点に留意して行うこと。
(1)監査担当者の主観的な判断で法令又は通知の根拠なしに指摘を行わないこと。
(2)指摘基準に該当しない場合は文書指摘を行わないこと。
(3)指摘基準に該当する場合であっても、違反の程度が軽微である場合又は文書指摘を行わずとも改善が見込まれる場合には、口頭指摘を行うことができること。
(4)指摘基準に該当しない場合であっても、法人運営に資するものと考えられる事項については、助言を行うことができること。なお、助言を行う場合は、法人が従わなければならないものではないことを明確にした上で行うこと。

■社会福祉法人に対する指導監査に関するQ&A(平成29年7月11日) 

問9 「実施要綱」の5の(1)のア若しくはイに記載のある口頭指摘や助言では、法人側に正確な記録が残らないこと、所轄庁と法人との間に認識の齟齬が発生し得ること、また、評議員、理事及び監事が所轄庁からどのような指導を受けたのか正確に把握できないことから、口頭指摘や助言を行う場合は、必ず文書で行うようにするべきではないか。


(答) 「実施要綱」の5の(1)においては、口頭指摘や助言の指導を行う場合には、法人と指導の内容に関する認識を共有できるよう配慮する必要があることを示しており、この共有の方法は基本的には書類(メモ等)により行うことを想定している。なお、所轄庁において文書指摘又は口頭指摘等に関して適切に区分した上で、公文書の形式で行うことを妨げるものではない。