介護サービス基準のパズル

介護サービスの基準・解釈通知・Q&Aを読み解く ~まずは「訪問介護」の基準から~

運営指導での文書指導は「約5割」、過誤調整の指導は「1割弱」

 厚生労働省の調べによると、令和3年度の「訪問介護事業所」に対する自治体の運営指導(令和4年3月の厚生労働省の「介護保険施設等指導指針」の改正前は、「実地指導」)の実施率は、新型コロナウイルス感染症の拡大も影響し、全国平均で7.0%と低調でした。

 コロナ前の平成30年度の実施率が18.4%でしたので、これと比べて、11.4ポイントも落ちています。ちなみに、令和2年度は6.6%でしたので、若干増えていて、コロナの影響が無くなってくれば、以前のような実施率に戻るのではないかと推測します。

 また、令和3年度に運営指導を受けた「訪問介護事業所」のうち、法令や基準等に規定した事項に違反していたため、運営指導の結果通知で「文書指導」となり、改善報告を提出するよう指示を受けた事業所の割合は、48.5%でした。

 さらに、運営指導を受けた事業所の8.4%の事業所で、介護報酬の算定要件に適合していなかったため、過誤調整を行うように指導が行われたということです。

 つまり、運営指導を受けた「訪問介護事業所」の約5割の事業所で、法令や基準等に規定した事項に違反していたために文書指導を受け、1割弱の事業所で介護報酬の過誤調整の指導を受けたということになります。

 これらの情報は、厚生労働省が例年3月に開催する「全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議」の会議資料に掲載されているものです。令和2年からは、それまでの集合形式での会議開催から、ホームページへの資料掲載に変更されています。

  • 令和5年3月に掲載された「令和4年度 全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料」は、こちら (老健局「総務課介護保険指導室」の資料に掲載)

 

 運営指導の令和3年度の実施状況に関連して、運営指導の「実施頻度」と「介護報酬の算定要件に適合していない場合の過誤調整の取扱い」について、補足して説明しておきます。

【運営指導の「実施頻度」】

 運営指導の「実施頻度」については、厚生労働省の「介護保険施設等指導指針」「介護保険施設等運営指導マニュアル」では、次のとおり記載しています。

①原則として、指定(許可)の有効期間内に少なくとも1回以上

②次のサービスは、3年に1回以上行うことが望ましい(利用者の生活の場であること等を考慮)

  • 居住系サービス: 特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護
  • 施設系サービス: 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
  • 施設サービス: 介護老人福祉施設、老人保健施設、介護医療院、介護療養型医療施設

  なお、実際の運営指導の実施頻度は、自治体によってバラツキがあるのが実態のようです。

 厚生労働省の補助を受けた事業(老人保健健康増進等事業)で、実施頻度について調査したものがありましたので、参考として、以下に掲載しておきます。

「介護保険施設等実地指導マニュアルの在り方に関する調査研究報告書(令和3年3月・国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)」(令和3年1月~2月に全国の自治体に対して調査したもの)

  • 「訪問系サービスへの実地指導の頻度」は、「6年に1回程度(指定期間内に1回)」が43.5%、「2~3年に1回程度」が20.3%
  • 「新規指定の訪問系サービスに対する実地指導の頻度」は、「指定後1年以内に実施」が31.0%、「指定後2~3年以内に実施」が29.7%

【介護報酬の算定要件に適合していない場合の過誤調整の取扱い】

 運営指導の報酬請求指導(基本報酬や加算等が算定要件に適合している否か確認する指導)について、「介護保険施設等運営指導マニュアル」では、不正請求ではなく、「加算報酬の算定要件に関する誤った理解により当該要件を一つでも満たしていなかった場合は、当該加算について自己点検の上、過誤調整を行うよう指導」することになっています。

 また、「加算報酬の請求に関し、単なる誤りではなく、偽りその他の不正な行為によって報酬の請求が行われていたことが判明した場合又はその疑いがあると認められた場合」には、運営指導から監査に切り替えて立入検査が行われることになります。

 マニュアルのp19には、次のとおり、報酬請求指導における加算請求の確認についての考え方が整理されています。

 この表の中央、「基準不適合」の欄で、基準要件等を満たしていない部分については、「自己点検」と「過誤調整」を「遡及」して行うこととしていますが、遡及する期間はマニュアルには記載されていません。この遡及期間については、過去の厚生労働省の会議資料の中に示されています。(「解説 訪問介護の基準」p36~37を参照)

 なお、不正請求の場合ではない「過払いの場合の返還請求」の消滅時効は5年とされています。

 また、過誤調整によって国民健康保険団体連合会に介護報酬を返還することになった場合には、利用者が支払った利用者負担金の過払い分を、返還金に係る計算書を付して返還することになっています。