介護サービス基準のパズル

介護サービスの基準・解釈通知・Q&Aを読み解く ~まずは「訪問介護」の基準から~

旧介護予防訪問介護相当サービスの運営基準は、「旧館」と「増築分」の2つ

 「介護予防訪問介護」と「介護予防通所介護」は、平成26年度までは、「介護予防訪問入浴介護」や「介護予防訪問看護」など他の介護予防サービスと同様に、全国一律の「予防給付(要支援者に対する保険給付)」として実施されていました。

 それが、平成26年の介護保険法の改正で、平成27年度から29年度にかけて、市町村が実施する「介護予防・日常生活支援総合事業」の中の「第1号訪問事業」「第1号通所事業」の一部に順次移行していきました。

 総合事業に移行する趣旨として、厚生労働省は、「要支援者等の能力を最大限活かしつつ、旧介護予防訪問介護・旧介護予防通所介護と住民等が参画する多様なサービスを総合的に提供可能な仕組みに見直すこととした」と説明していました。

 そして、「多様なサービスの典型的な例」については、次のとおり整理されています。

【第1号訪問事業】
旧介護予防訪問介護に相当するサービス
主に雇用されている労働者により提供される、旧介護予防訪問介護に係る基準よりも緩和した基準によるサービス(訪問型サービスA)
有償・無償のボランティア等により提供される、住民主体による支援(訪問型サービスB)
保健・医療の専門職により提供される支援で、3~6か月の短期間で行われるもの(訪問型サービスC)
サービス事業と一体的に行われる移動支援や移送前後の生活支援(訪問型サービスD)

【第1号通所事業】
旧介護予防通所介護に相当するサービス
主に雇用されている労働者により又は労働者とともにボランティアが補助的に加わった形により提供される、旧介護予防通所介護に係る基準よりも緩和した基準によるサービス(通所型サービスA)
有償・無償のボランティア等により提供される、住民主体による支援(通所型サービスB)
保健・医療の専門職により提供される支援で、3~6か月の短期間で行われるもの(通所型サービスC)

 上記のサービスの種別で、指定を受けた事業者が実施するものは、の旧介護予防訪問介護相当サービス・旧介護予防通所介護相当サービスと、の緩和した基準による訪問型サービスA・通所型サービスAとされています。

 

 前置きが長くなりましたが、旧介護予防訪問介護・旧介護予防通所介護(以下「旧介護予防訪問介護等」)に相当するサービスの運営基準について、厚生労働省は次のとおり説明しています。(地域支援事業実施要綱(厚生労働省・直近の改正:令和3年9月21日) 別記1  総合事業)

旧介護予防訪問介護等に相当するサービスに係る人員・設備・運営の基準については、

省令第140条の63の6第1号イに規定する平成30年度介護報酬改定前の指定介護予防サービス等の事業の人員、設備及び運営並びに指定介護予防サービス等にかかる介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準(平成18年厚生労働省令第35号。以下「旧介護予防サービス等の基準」という。)に規定する旧介護予防訪問介護等に係る規定 【A】

及び

介護保険法施行規則第140条の63の6第1号に規定する厚生労働大臣が定める基準(令和3年厚生労働省告示第71号) 【B】

の例により、市町村が定める基準によること。

 補足して説明すると、【A】は、平成27年度の改定で削除されたものの、経過措置で「なおその効力を有する」とされた「旧介護予防訪問介護」「旧介護予防通所介護」に係る基準となります。また、 【B】は、【A】以外で、平成30年度と令和3年度の改定で追加した基準になっています。

 【A】の省令をベースに、【B】を別の告示で追加していますので、基準の項目は整然としていません。旅館に例えれば、旧館(平成27年度の基準)があって、これに増築(平成30年度以降の改定基準)しているなど、まるで迷路のようです。

 また、平成30年度の改定内容は、現在は【B】の告示に含まれていますが、平成30年度当時は、告示ではなく、通知の「地域支援事業実施要綱」の中で規定されていたことも不思議な感じがします。

 市町村(東京23区)では、厚生労働省の基準の例によって要綱等で基準を定めていると思いますが、改めて、厚生労働省の基準を確認しようとすると容易なことではありません。ましてや、事業所がそれを確認しようとするのは、非常に難しいのではないかと感じます。

 なお、訪問型サービスAと通所型サービスAの運営基準について、厚生労働省は、省令や告示で具体的な基準は示していません。サービス内容を勘案した基準を、地域の実情に応じて市町村(東京23区)が定めることとされています。

 

 移行前の介護予防訪問介護のときは、指定した都道府県が、訪問介護の実地指導の際に、介護予防訪問介護の実地指導も併せて実施し、それぞれの基準の適合状況を確認していましたが、第1号訪問事業への移行後は、旧介護予防訪問介護相当サービスの運営を都道府県が見ることがなくなってしまいました。

 市町村(東京23区)が、第1号訪問事業に対する実地指導をどの程度実施しているのか気になるところですが、厚生労働省の会議資料などではその状況は確認できません。

 もっとも、第1号訪問事業等の指定事業者に対する実地指導の根拠自体が、定かではないことも、大きな問題ではないかと考えます。このことについては、次回の記事に掲載します。