介護サービス基準のパズル

介護サービスの基準・解釈通知・Q&Aを読み解く ~まずは「訪問介護」の基準から~

第1号訪問・通所事業者に対する実地指導の根拠は、定かではない

 前回の記事で、「第1号訪問事業等の指定事業者に対する実地指導の根拠自体が、定かではないこと」について触れましたが、今回はその続きです。

 第1号訪問事業・第1号通所事業の指定事業者に対する指導監査のうち、「監査」については、介護保険法第115条の45の7に規定されていますが、「実地指導」についてはその根拠が定かではありません。

 まず、厚生労働省の通知から確認していきます。

 平成27年3月31日に、厚生労働省は【A】「介護予防・日常生活支援総合事業指定事業者等の指導監督について」の通知を発出し、その中で、指導監査の根拠について、次の表を示し、実地指導の根拠は「介護保険法の規定なし」としていました。(この通知は、現時点では改正されていません。)

 それが、2か月後の平成27年6月5日に発出した【B】「介護予防・日常生活支援総合事業のガイドラインについて」では、次の表のとおり、実地指導は「介護予防・日常生活支援総合事業の適切かつ有効な実施を図るための指針(厚生労働省告示第196号)に基づき実施」と明記しています。(この通知は、その後何度か改正が行われていますが、直近の令和4年6月27日の改正でも、この部分は当初の通知のままです。)

 厚生労働省老健局長が発出した【A】【B】2つの通知で、異なる見解が示されていることをどう考えればいいのでしょうか。

 【B】の通知で、根拠として厚生労働省告示第196号の指針が記載されていますので、次に、この指針を確認します。

 平成27年厚生労働省告示第196号の「介護予防・日常生活支援総合事業の適切かつ有効な実施を図るための指針」では、事業者に対する指導監督について次のように記載しています。

 サービス事業を提供する事業者に対する指導監督について、市町村においては、都道府県による指定居宅サービス事業者等(法第22条第3項に規定する指定居宅サービス事業者等をいう。以下同じ。)に対する指導監督において不適切な事例が見つかった場合に、都道府県と連携して指導監督を行うなど、効率的に適切な総合事業の実施に努めることが必要である。
 特に、既存の指定居宅サービス事業者等については、引き続き、要介護者及び要支援者双方にサービス提供を行うことが想定されることから、都道府県においては、都道府県が指定した指定居宅サービス事業者等の指導監督において、不正請求や運営基準違反等が判明した場合には、法に基づき勧告・命令や指定の取消し等を行うとともに、必要な情報を市町村に提供し、共同で指導監督を行うなど、総合事業の指導監督が効果的・効率的に実施できるよう支援することが望ましい。

 ・・・どこに、第1号訪問事業・第1号通所事業の指定事業者に対する「実地指導」の根拠が書かれているのでしょうか。

 ここでは、不適切な事例が見つかった場合、「監査」を都道府県と市町村が連携・共同して行うことについて言及しているに過ぎず、「実地指導」の根拠など、何も示していないように思われます。

 以上から、第1号訪問事業・第1号通所事業の指定事業者に対する「実地指導」の根拠について、厚生労働省の見解を整理すると、次のとおりになります。

  • 介護保険法には根拠となる規定がない
  • 平成27年厚生労働省告示第196号の指針が根拠である
  • 当該指針で、指導監督について触れているが、「実地指導」の根拠そのものは明記していない

【2023-5-27 補足】
 厚生労働省のホームページに掲載されている、「介護予防・日常生活支援総合事業ガイドライン案についてのQ&A(平成26年9月30日版)」では、次のとおり、「実地指導は、総合事業の趣旨を踏まえ、必要に応じて実施する」旨の見解が示されていましたが、根拠は明記されていません。

問5 指定事業者に対して定期的に実地指導を行わなければならないのか。また、多様なサービスに対する指導の必要があるのか。その場合の基準はどのようなものか。
(答)
 指定事業者に対する指導については、総合事業の趣旨を踏まえ、必要に応じて市町村において適切に実施していただきたい。なお、不正事案があった場合には、改正後の介護保険法第115条の45の7及び第115条の45の8の規定も踏まえ、状況に応じて市町村において適切に実施していただきたい。(以下略)

 「実地指導」の根拠の手がかりが見えてきませんので、念のため、介護保険法第23条の規定についても確認しておきたいと思います。

 第23条は、市町村が保険者として、居宅サービスなどの介護サービス事業者に対する運営指導を行う際の根拠となるものです。

 運営指導の対象とするサービスには、「居宅サービスに相当するサービス」が含まれることから、これを第1号訪問事業・第1号通所事業の指定事業者に対する「実地指導」の根拠にできないかと考えることもできるかもしれませんが、結論として根拠にはできません。

 第23条は、「保険給付」に関して必要があると認めるとき、当該「保険給付」に係る居宅サービスなどの介護サービス事業者に対する運営指導ができる旨の規定となっています。そして、「保険給付」とは、第18条で「介護給付」「予防給付」「市町村特別給付」と規定されています。

 第1号訪問事業・第1号通所事業は、「予防給付」でも「市町村特別給付」でもなく、第115条の45に規定する、介護予防・日常生活支援総合事業などの「地域支援事業」に位置付けられるものです。

 したがって、第23条の規定を、第1号訪問事業・第1号通所事業の指定事業者に対する「実地指導」の根拠にはできないことになります。

 「実地指導」の根拠が明確ではないため、「実地指導」を全く実施していない市町村が多いのかもしれませんが、その実態はよく分かりません。

 また、「実地指導」を実施している市町村では、介護予防・日常生活支援総合事業の実施に関する要綱などで、実地指導について規定している場合があるようです。

 

【補足】
 「市町村特別給付」を実施している市町村は少なく、厚生労働省の「令和3年度介護保険事務調査」の集計結果では、実施保険者数は98(6.2%)に過ぎない。(主な事例:配食サービス、紙おむつの支給、移送サービス)

 

【参考】

(文書の提出等)
第23条 市町村は、保険給付に関して必要があると認めるときは、当該保険給付を受ける者若しくは当該保険給付に係る居宅サービス等(居宅サービス(これに相当するサービスを含む。)、地域密着型サービス(これに相当するサービスを含む。)、居宅介護支援(これに相当するサービスを含む。)、施設サービス、介護予防サービス(これに相当するサービスを含む。)、地域密着型介護予防サービス(これに相当するサービスを含む。)若しくは介護予防支援(これに相当するサービスを含む。)をいう。以下同じ。)を担当する者若しくは保険給付に係る第45条第1項に規定する住宅改修を行う者又はこれらの者であった者(第24条の2第1項第一号において「照会等対象者」という。)に対し、文書その他の物件の提出若しくは提示を求め、若しくは依頼し、又は当該職員に質問若しくは照会をさせることができる。

(保険給付の種類)
第18条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 被保険者の要介護状態に関する保険給付(以下「介護給付」という。)
二 被保険者の要支援状態に関する保険給付(以下「予防給付」という。)
三 前二号に掲げるもののほか、要介護状態等の軽減又は悪化の防止に資する保険給付として条例で定めるもの(第五節において「市町村特別給付」という。)