介護サービス基準のパズル

介護サービスの基準・解釈通知・Q&Aを読み解く ~まずは「訪問介護」の基準から~

訪問介護の利用者が負担した利用料は、医療費控除の対象になるのか?

 まず、質問から・・・

Q1 訪問介護サービスの利用料を受け取ったときに、領収証を交付することは、運営基準に定められている。>> Yes No

Q2 医療費控除対象額を領収証に記載することは、運営基準の解釈通知に書かれている。>> Yes No

Q3 確定申告で医療費控除が受けられるように、すべての利用者の領収証に、医療費控除対象額を記載する。>> Yes No 

 

 いかがでしょうか? 答えはいずれも「No」です。

A1 運営基準で、「利用料の支払をうけること」は規定していますが、領収証を交付することは何ら触れられていません。領収証の交付については、介護保険法第41条第8項で交付が義務付けられているものです。また、介護保険法施行規則第65条では、次のとおり区分(④はそれぞれ個別の費用ごとに区分)して記載することが求められています。

①利用者の自己負担額、②食費、③宿泊費・滞在費、④その他の費用(支給限度基準額を超えたサービスを利用した場合の費用、通常の事業の実施地域以外の居宅でサービスを行う場合の交通費など) 【②③は、訪問介護サービスでは該当しないもの】

A2 居宅サービスなどでの医療費控除の取扱いについては、運営基準の解釈通知ではなく、以下の通知で示されています。

A3 訪問介護サービスのすべての利用者が医療費控除を受けられる訳ではありません。訪問介護サービスの利用者のうち、訪問看護などの医療系サービスも併せて受けている一定の利用者についてのみ、医療費控除が受けられる取扱いになっています。このため、その利用者が確定申告で医療費控除の手続きが行えるように、領収証には医療費控除対象額などを記載する必要があります。詳しくは、以下のとおりです。

【医療費控除の取扱いに係る通知】

  • 介護保険制度下での居宅サービス等の対価に係る医療費控除等の取扱いについて(平成12年6月1日厚生省通知/改正:平成25年1月25日事務連絡【A】 >>こちら 平成28年10月3日事務連絡【B】 >>こちら
  • 介護保険制度下での介護サービスの対価にかかる医療費控除の取扱いに係る留意点について(平成12年11月16日厚生省通知/改正:平成30年9月28日)【C】 >>こちら

 厚生労働省が示す運営指導での標準的な確認項目に、領収証への「医療費控除の記載は適切か」が含まれていますので、その記載状況については運営指導で必ず確認が行われます。このため、通知等を確認の上、適切に対応しておく必要があります。

 

 病院で受診時に支払った医療費が医療費控除の対象になるのと同様に、介護保険で次の医療系サービスを利用した際に支払った自己負担額は、医療費控除の対象とされています。

 【医療費控除の対象となる医療系サービス】 訪問看護(医療保険での訪問看護を含む)、訪問リハ、通所リハ、居宅療養管理指導、短期入所療養介護 など

 一方、訪問介護などの福祉系サービスについては、単独では医療費控除の対象にはなりませんが、上記の【医療系サービス】を併せて利用した場合に限り、その利用者負担額についても、医療費控除の対象となる取扱いになっています。

 なお、訪問介護のうち、「身体介護」と「通院等乗降介助」は医療費控除の対象となりますが、「生活援助」については対象とはなりませんので、注意が必要です。1回の訪問介護で「身体介護」と「生活援助」を組み合わせて算定する場合は、当該1回の訪問介護に係る自己負担額が医療費控除の対象となることが、Q&Aで示されています。

 総合事業の第1号訪問事業では、「旧介護予防訪問介護に相当するサービス(身体介護と生活援助を一本化するサービス)」は対象となりますが、「訪問型サービスA(生活援助等のサービス)」は対象外です。

 該当する利用者の領収証には、「①医療費控除対象額」と「②ケアプランを作成した居宅介護支援事業所等の名称」を記載する必要があります。領収証の様式例は、上記の事務連絡【B】のp7に示されていますので、参考にしてください。

 「①医療費控除対象額」は、保険給付・総合事業対象分の利用者負担額となります。保険給付・総合事業の対象とならない利用者負担(自費サービスの利用料、支給限度基準額を超えたサービスを利用した場合の利用料、通常の事業の実施地域以外の居宅で訪問サービスを行う場合の交通費など)は、含まれません。

 では、利用者が上記の【医療系サービス】を併せて利用したことをどのように確認するのでしょうか? 上記の通知【C】では、利用者に交付する領収証の「医療費控除対象額」の記載に当たっては、「当該利用者の居宅サービス計画に、訪問看護等の居宅サービスが位置付けられていることを確認した上で、サービス提供票に基づき記載することとなる」とされています。

 なお、この通知では、居宅療養管理指導や医療保険による訪問看護については必ずしもサービス提供票に記載されているとは限らないため、居宅介護支援事業所等に対して、サービス提供票の欄外にこれらのサービス利用の内容を記載して、介護サービス事業所等に交付することなどを求めています。

 介護保険請求ソフトを導入して、請求書(領収書)を作成している事業所も多いと思いますが、利用者全員の領収書に医療費控除対象額等を記載していたり、逆に該当者も含めて一切記載していない事例も少なくないようですので、必要に応じて確認が必要と思われます。

 訪問介護事業所によっては、サービス提供票での確認に加えて、毎月、担当する居宅介護支援事業所等に対して該当者か否かのチェックを依頼する事業所もあるようです。

 なお、介護職員処遇改善加算、初回加算に係る自己負担額を、医療費控除の対象とする取扱いについては、別途、Q&Aが出ていますが、ここでの説明は省略します。

 このほか、事例は少ないと思われますが、訪問介護サービスを利用中に、介護福祉士等による喀痰吸引等が行われた場合についても、自己負担額の10分の1が医療費控除の対象となる取扱いになっています。(上記の事務連絡【A】の別添2を参照)

 

【参考】領収証への医療費控除対象額等の記載については、「解説 訪問介護の基準」のp114~116で、介護福祉士等による喀痰吸引等についてはp66〜70で、それぞれ詳しく説明しています。