介護サービス基準のパズル

介護サービスの基準・解釈通知・Q&Aを読み解く ~まずは「訪問介護」の基準から~

人員・設備・運営基準等の改正省令が公布

 本日(1月25日)、人員、設備及び運営に関する基準等の改正省令が公布されました。

  • 介護保険最新情報(Vol.1201)のPDFファイルは、こちら

 また、e-Govパブリック・コメントのサイトには、意見募集結果として「案に対する意見の要旨」と「意見に対する厚生労働省の考え方」が掲載されています。

 提出意見336件のうち、今回の意見募集に関係のない意見48件を除くと、288件になりますが、内容で分類した結果、75件の意見に整理されていました。また、「提出意見を踏まえた案の修正の有無」で「有」となっていますが、意見募集結果を見る限りでは、何を修正したのかは明らかではありません。

  • 意見募集結果は、こちら(e-Govパブリック・コメント)

 

 さて、当方から提出した以下【1】~【4】の意見がどう扱われたかというと、次のとおりでした。特に重要と考えていた【1】と【3】は、意見募集結果に載せてもらうことも叶わず、残念な結果でした。

 

【1】(全サービス共通)「管理者の兼務範囲の明確化」
 「管理者の兼務範囲」について改正が予定されているが、そもそも管理者の兼務に係る現状分析や管理者が実際に行っている業務分析が不十分である。
 資料には、管理者業務について、「(1)現場でのマネジメントに関する業務、(2)現場職員としての事務作業、(3)経営に関する業務」に整理したものが出ているが、事業所や法人の規模によって、実際に管理者が担っている範囲は大きく異なっている。
 【A】小規模の事業所では、管理者が事業所の他の職務に従事しながら、これらの管理者業務のすべてを担っている場合が少なくない。
 【B】大規模の法人・事業所では、法人本部の総務部門や事業所の総務課長・事務職員(経理財務、労務、給与計算、介護報酬請求などをアウトソーシングしている場合にあっては、外部の委託業者)が、上記の管理者業務のうち、より実務的な業務の大部分を担い、管理者は意思決定のみに関与するという実態がある。
 上記【B】の場合には、常勤専従1人といった配置基準からは大きくかけ離れ、実態として、1事業所当たり常勤換算で0.5人程度で足りる場合もあれば、あるいは、0.1人程度になっている場合も想定される。
 自治体によって、管理者が兼務する場合に「勤務時間の50%を管理者として従事しなければならない」旨のローカルルールを設けているのも、そもそも、厚生労働省が管理者業務について明確な業務範囲を示していないことに起因している。
 したがって、管理者の兼務範囲を検討する前に、管理者の実際の業務分析を行った上で、常勤専従といった管理者の配置基準について検討を行う必要があったのではないか。
 関係団体への管理者の役割についての聞き取り調査で、「大規模施設で事務長や役職上の施設長が別に存在する場合、基準上の管理者の業務は決裁・指示・命令のみになる」ことを把握しながら、その現状を精査しないのは、怠慢でしかない。
 また、管理者の兼務範囲の見直しに伴い、「常勤」の計算に当たって勤務時間を通算する考えが示されているが、これなどは、本来の配置基準を形骸化することに他ならない。

【結果】
 取りまとめられた意見の中には、含まれておりませんでした。厚生労働省の考え方を聞きたかったのですが、残念です。

 

【2】 (全サービス共通)「書面掲示」規制の見直し
 現在、事業所に義務付けている事業所内での重要事項の書面掲示については、利便性もなければ、実効性もない基準であり、アナログ規制の典型である。
 事業所内で掲示物を探して、その前に立ち、小さな字を読み込む人など、皆無であるのが現状と思われる。
 このため、重要事項については、書面掲示は不要とし、「ウェブサイトへの掲載」と「ファイルでの備え置き」に限定して義務付けるのが適切ではないか。

【結果】
 上記の全文ではなく、抜粋して掲載されましたが、これに対する厚生労働省の考え方は「現行でも備え付けによって書面掲示を代替することは可能」ということでした。
 原則が「書面掲示」となっているので、それを不要にしたらどうかという意見を出したのですが、的外れな考え方が示されました。

 

【3】(居宅介護支援)「公正中立性の確保のための取組の見直し(居宅介護支援基準第4条第2項関係)」
 「前6月間に作成した居宅サービス計画における、訪問介護、通所介護、福祉用具貸与及び地域密着型通所介護の各サービスの同一事業者によって提供されたものの割合」については、居宅介護支援基準第4条第2項及び通知で、特定事業所集中減算での取扱いと同様に、同一事業者(法人)単位で見た場合の提供割合(同一法人が運営する事業所を合算した割合)とされている。
 しかし、令和3年度のQ&A(Vol. 3・問111)では、同一事業者(法人)単位ではなく、同一事業所単位で割合を計算する考え方が示されており、介護サービス情報公表システムにおいても、「前6ヶ月間に作成したケアプランにおける同一事業所によって提供された各サービスの割合と事業所名」が公表されている。
 基準とは異なる運用が、令和3年度の改定当初から行われているものであるが、この問題について、介護給付費分科会の事務局(老健局)からの報告はなく、分科会では一切審議されていない。
 現状分析が正しく行われていないことから、当該規定を「努力義務」に緩和するのは余りに早計な判断であり、改めて、運用上の問題を精査し、分科会で審議する必要があるのではないか。
 また、こうした運用は、基準第4条第2項に定める規定に適合していないことから、運営基準減算が適用されることになるという極めて重大な問題を含んでいるため、直ちに是正措置を講じる必要がある。

【結果】
 こちらも、取りまとめられた意見の中には、見当たりませんでした。スルーされてしまったということでしょうか。
 義務付けから努力義務に緩和されましたので、介護サービス情報公表システムに載せることもなくなるかもしれません。令和3年度のQ&A(Vol. 3・問111)が修正されるのか、3月下旬の通知改正を注視したいと思います。
 なお、そもそも、令和3年度に義務付けたものを、僅か3年で努力義務に緩和することなど、通常では考えられない改正であり、令和3年度改正の時点で介護給付費分科会において十分な審議が行われたのか疑問が残ります。

 

【4】(全サービス共通)「秘密保持等」(今回の改正に含まれない項目であるが、通知の改正が必要なもの)

 従業者に対する利用者・家族の秘密保持の義務付けに係る通知で、「従業者でなくなった後においてもこれらの秘密を保持すべき旨を、従業者の雇用時等に取り決め、例えば違約金についての定めを置くなどの措置を講ずべき」と記載している。
 しかし、労働基準法第16条では、労働契約の不履行について違約金を定めることを禁止しているため、当該通知は法律に抵触する不適切な内容である。
 障害福祉サービスの運営基準に係る通知にも同様の内容が記載されていたが、平成30年3月の改正で、「違約金についての定めを置く」という例示部分が削除された。
 介護サービスの運営基準についても、直ちに必要な改正を行う必要があるのではないか。
 また、厚生労働省の「平成27年度介護報酬改定について」のサイトに掲載している基準通知(平成11年9月17日老企第25号)の当該箇所については、以下の平成15年3月19日の改正が反映されていないので、訂正が必要である。
 (平成15年改正前)「従業者との雇用時等に取り決め、例えば違約金についての定めをおく」
→(平成15年改正後)「従業者の雇用時等に取り決め、例えば違約金についての定めを置く」

【結果】
 今回の意見募集には関係のない意見のため、当然、結果には掲載されていません。3月下旬の通知改正で、意見が反映されるかどうか興味深いところです。