介護サービス基準のパズル

介護サービスの基準・解釈通知・Q&Aを読み解く ~まずは「訪問介護」の基準から~

「実務者研修修了者」は、今の告示の規定で訪問介護の「サービス提供責任者」になれるのか?(平成28年の告示改正を巡る問題)

 訪問介護事業所に配置が必要な「サービス提供責任者」の資格については、「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」第5条第4項で「介護福祉士その他厚生労働大臣が定める者」と規定しています。

 そして、後者の「厚生労働大臣が定める者」は、平成24年3月13日厚生労働省告示第118号の「厚生労働大臣が定めるサービス提供責任者」で定めています。(現時点では、この告示の最終改正は、平成30年厚生労働省告示第78号による改正)

 この告示で、サービス提供責任者の資格に「実務者研修修了者」が含まれることが規定されていましたが、平成29年度以降は、告示を解釈する限りでは「実務者研修修了者」は含まれないのではないかと思われます。

 なお、社会保障審議会介護給付費分科会の資料(令和2年8月19日・資料2)などでは、従来どおり、サービス提供責任者の資格に「実務者研修修了者」を含む取扱いが示されており、実務上も何ら変更はないのが実態です。

 このことについて、「解説 訪問介護の基準」p264で「疑問」として掲載しましたが、改めて、関連する「社会福祉士及び介護福祉士法」の改正経緯を含めて調べてみましたので、整理しておきます。

 まず、現行の告示では、次のとおり規定されています。第一号が、従来「実務者研修修了者」と位置付けられていた規定ですが、研修を受ける学校・施設は、社会福祉士及び介護福祉士法第40条第2項「第二号」の指定を受けていることとされています。

厚生労働大臣が定めるサービス提供責任者(平成24年3月13日厚生労働省告示第118号)

一 社会福祉士及び介護福祉士法(昭和62年法律第30号)第40条第2項第二号の指定を受けた学校又は養成施設において1月以上介護福祉士として必要な知識及び技能を習得した者

二 介護保険法施行規則の一部を改正する省令(平成24年厚生労働省令第25号)による改正前の介護保険法施行規則(平成11年厚生省令第36号)第22条の23第1項に規定する介護職員基礎研修課程又は1級課程を修了した者

三 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)第5条第2項に規定するサービス提供責任者(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令37号)第39条の2に規定する共生型訪問介護の提供に当たる者に限る。)

 次に、社会福祉士及び介護福祉士法第40条第2項「第二号」の規定を確認すると、次のとおり、「社会福祉の科目を履修した大学卒業者であって、介護福祉士養成施設卒業者」になっています。この項で「実務者研修修了者」と位置付けられるのは、「第二号」ではなく「第五号」とされています。

社会福祉士及び介護福祉士法第40条(介護福祉士試験)第2項

2 介護福祉士試験は、次の各号のいずれかに該当する者でなければ、受けることができない。

一 (略)

二 学校教育法に基づく大学において文部科学省令・厚生労働省令で定める社会福祉に関する科目を修めて卒業した者(当該科目を修めて同法に基づく専門職大学の前期課程を修了した者を含む。)その他その者に準ずるものとして厚生労働省令で定める者であつて、文部科学大臣及び厚生労働大臣の指定した学校又は都道府県知事の指定した養成施設において1年以上介護福祉士として必要な知識及び技能を修得したもの

三 (略)

四 (略)

五 3年以上介護等の業務に従事した者であつて、文部科学大臣及び厚生労働大臣の指定した学校又は都道府県知事の指定した養成施設において6月以上介護福祉士として必要な知識及び技能を修得したもの

六 (略)

 以下の厚生労働省のホームページ「介護福祉士の資格取得ルート」(抜粋)でも、「第五号」が、実務経験ルートでの「実務者研修」になっています。

 では、なぜ、こういった規定の間違い(と思われること)が生じてしまったのか推測すると、社会福祉士及び介護福祉士法第40条第2項に規定する「介護福祉士試験」の受験資格の施行について、次のとおり、度重なる延期が行われたことが影響していたのではないかと考えられます。

【1】実務者研修に係る介護福祉士国家試験の受験要件としての実務者研修の修了義務化の施行期日の延期(平成24年4月1日 > 平成27年4月1日 > 平成28年4月1日)【平成29年4月1日に【2】が施行(上記の第一号~第三号が追加)されたことに伴い、号がずれ、「第二号」で規定していたものが「第五号」での規定に改正】

【2】介護福祉士養成施設卒業者に対する国家試験の義務付けの施行期日の延期(平成24年4月1日 > 平成27年4月1日 > 平成28年4月1日 > 平成29年4月1日)【平成29年4月1日に、第一号~第三号が追加】

 社会福祉士及び介護福祉士法第40条第2項の改正に合わせて、厚生労働大臣が定めるサービス提供責任者の告示が改正されていますが、平成28年の告示改正(平成28年厚生労働省告示第183号)は、上記の【1】の施行に伴い改正されたものです。

 しかし、【2】の施行に伴う改正(告示第一号の規定中「第二号」を「第五号」に改めること)が、現在まで行われていないことから問題が生じているものと思われます。したがって、実態は別として、「サービス提供責任者」を規定する現在の告示第一号の要件では、「実務者研修修了者」は該当しないのではないかと考えられます。

  • デジタル庁が運営する「e-Gov」(行政サービスや施策に関する情報を掲載)の「パブリック・コメント」のサイトに掲載されている「概要(厚生労働省告示第183号)」 >> こちら (案件番号 495150460)
  • 改正告示の官報 >> こちら

 当該告示の改正は平成28年に一括して改正が行われ、次の3つの告示も同様に改正されたものです。いずれも、その後の改正は行われていないようです。

  • 訪問介護費の特定事業所加算の基準(厚生労働大臣が定める基準(平成27年厚生労働省告示第95号)第三号イ(5))
  • (障害福祉サービス) 「指定居宅介護等の提供に当たる者として厚生労働大臣が定めるもの」(平成18年厚生労働省告示第538号)第1条第二号
  • (障害福祉サービス) 居宅介護サービス費の特定事業所加算の基準(厚生労働大臣が定める基準(平成18年厚生労働省告示第543号)第一号イ(6))

【上記3つの告示での改正後の該当箇所】
「社会福祉士及び介護福祉士法(昭和62年法律第30号)第40条第2項第二号の指定を受けた学校又は養成施設において1月以上介護福祉士として必要な知識及び技能を習得した者(以下「実務者研修修了者」という。)」

 

(補足)「厚生労働大臣が定めるサービス提供責任者」の告示の第一号で、研修期間が「1月以上」と規定されている趣旨については、「解説 訪問介護の基準」p264を参照してください。