介護サービス基準のパズル

介護サービスの基準・解釈通知・Q&Aを読み解く ~まずは「訪問介護」の基準から~

緊急時訪問介護加算の算定時に、「訪問介護計画の修正(変更)」は本当に必要か?

 厚生労働省のQ&A(全文は文末に掲載)で、緊急時訪問介護加算(1回につき100単位)を算定するときには、「訪問介護計画は必要な修正を行うこと」という取扱いが示されています。

 そもそも、緊急時訪問介護加算は、ケアプランに位置付けられていない(したがって、訪問介護計画にも位置付けられていない)「身体介護」を、一定の手続きを経た上で、緊急に、一時的に提供した場合に算定できるものです。

 厚生労働省が示す取扱いに従えば、当該加算を算定する次の一連の流れの中で、④と⑥が必要になってくることになります。

①加算の算定要件・趣旨について利用者の同意(重要事項説明書等で説明し、同意を得ておく)

②利用者・家族から緊急に、「身体介護」サービス提供の要請

③サービス提供責任者がケアマネへ連絡し、ケアマネがその必要性を判断(やむを得ない理由でケアマネに連絡できない場合は、事後でも可能とされている)

訪問介護計画の変更【緊急・一時的な「身体介護」の追加】、利用者・家族への説明、利用者の同意

⑤緊急時の「身体介護」サービスの提供

訪問介護計画の変更【緊急・一時的な「身体介護」の削除】、利用者・家族への説明、利用者の同意

 しかし、この④と⑥の「訪問介護計画の変更」は、本当に必要なのでしょうか? この疑問を読み解くために、ケアプランでの取扱いについて確認しておきたいと思います。

 冒頭のQ&Aでは、居宅介護支援における事務処理として、「居宅サービス計画の変更を行うこと(すべての様式を変更する必要はなく、サービス利用票の変更等、最小限の修正で差し支えない。)」と記載しています。

 このため、通常、ケアマネは、括弧書きの方を適用して、第2表の「居宅サービス計画書(2)」や第3表の「週間サービス計画表」を変更するのではなく、第6表の「サービス利用票(サービス提供票)」を変更して対応しています。

 ケアマネが第2表、第3表を変更しない一方で、訪問介護事業所が、厚生労働省が示す取扱いのとおりに訪問介護計画を変更してしまうと、どうなるのでしょうか? 訪問介護計画は、通常、ケアプランの第1表~第3表の内容に沿って作成されるものであることから、当該計画はケアプランとの整合性がなくなり、運営基準に適合しない状況が生じてしまいます。

 したがって、訪問介護事業所においても、訪問介護計画そのものを変更するのではなく、ケアマネから提供された、変更後の第6表「サービス提供票」に基づいてサービスを提供するといった対応が、現実的で、ケアプランでの取扱いともバランスが取れていると考えられます。

 そもそも、当該加算は、「訪問介護計画に位置付けられていない身体介護」ではなく、「ケアプランに位置付けられていない身体介護」について利用者・家族からの緊急の要請があった場合を前提としているため、ケアプランでの取扱いを優先して考えるのが適切ではないかと思います。

 訪問看護でも、類似した名称の加算「緊急時訪問看護加算」(訪問看護ステーションの場合、1月につき574単位)があります。こちらの加算は、計画的に訪問することとなっていない緊急時の訪問看護を必要に応じて行う「体制を整備」している場合に算定できるもので、実際の緊急時の訪問看護の有無にかかわらず、当該月の1回目の訪問看護を行った日に加算するものとされています。

 また、実際に緊急時の訪問看護を行った場合には、通知で「居宅サービス計画の変更を要する」としていますが、訪問看護計画の変更までは必要としていません。

 この場合も、実務上、ケアマネは、第6表の「サービス利用票(サービス提供票)」を変更して対応し、訪問看護事業所では、変更後の第6表「サービス提供票」に基づいてサービスを提供しています。

 「緊急時訪問介護加算」であっても、「緊急時訪問看護加算」であっても、ケアマネは、支給限度基準額を管理する「給付管理」のために、「サービス利用票(サービス提供票)」を変更して、当該加算と緊急時の訪問に係る基本報酬のサービス内容の追加を行っています。

 また、第6表「サービス利用票(サービス提供票)」については、居宅介護支援の運営基準に係る通知では、ケアプランに含まれる旨の解釈(ケアプランとは、ケアプランの「第1表から第3表まで、第6表及び第7表に相当するものすべてを指す」)が出ています。このため、第6表「サービス利用票(サービス提供票)」の変更は、ケアプランの変更に該当することになります。

 厚生労働省が示す取扱いで、「緊急時訪問看護加算」の場合、訪問看護計画の変更を必要としない一方、「緊急時訪問介護加算」の場合には、訪問介護計画の変更を必要とする理由は、正直なところよく分かりません。

 厚生労働省の基準や通知、Q&Aの中には、時々よく分からないもの、整合性が取れていないものがあります。疑問が生じたときは、そのままとせず、一度立ち止まって、時間をかけて読み解くことも必要かと思います。

 緊急時訪問介護加算の算定時において、訪問介護計画及び居宅サービス計画の修正は必要か。

 緊急時訪問介護加算の算定時における事務処理については、次の取扱いとすること。
①指定訪問介護事業所における事務処理
・訪問介護計画は必要な修正を行うこと。
・居宅サービス基準第19条【編注:サービスの提供の記録】に基づき、必要な記録を行うこと。
②指定居宅介護支援における事務処理
・居宅サービス計画の変更を行うこと(すべての様式を変更する必要はなく、サービス利用票の変更等、最小限の修正で差し支えない。)
【h21.3.23 介護保険最新情報vol.69 平成21年4月改定関係Q&A(vol.1) 問31】