介護サービス基準のパズル

介護サービスの基準・解釈通知・Q&Aを読み解く ~まずは「訪問介護」の基準から~

介護保険制度の「令和6年度改定」に向けた動き【3】

 指定申請や変更の届出、介護報酬の体制届で使用する「様式」と「申請・届出の方法」について、以下ののとおり改正する省令【A】と告示【B】が、令和5年3月31日公布されました。

 改正の施行期日・適用日は、令和6年度の介護報酬の改定に合わせて、令和6年4月1日となっています。

【改正の趣旨・概要】

①申請や届出で使用する様式について、厚生労働大臣が定める様式の使用を原則とする

 これまで、厚生労働省からは標準様式例が示されていたが、自治体では独自の様式を使用することも少なくなかった。

 介護サービス事業者と自治体との間でやり取りされる文書の事務負担を軽減するため、厚生労働大臣が定める様式の使用を原則とする。

②申請や届出の方法について、「電子申請・届出システム」の使用を原則とする

 これまで、自治体への申請や届出の提出方法は、持参や郵送・電子メールなどで行われていたが、自治体によっては電子メールでの提出は受け付けないといった事例もあった。

 文書事務負担軽減の観点から、厚生労働省の「電子申請・届出システム」の使用を原則とし、令和7年度までに全ての自治体で利用開始する。

 なお、やむを得ない事情で、同システムによる届出を行うことができない場合は、電子メールの利用その他の適切な方法とする。(「やむを得ない事情」について、厚生労働省がまとめたパブリック・コメントの「意見募集結果」には、「事業所の職員がICTに不慣れである等、事業所側の都合によるものを想定」していると記載されている。)

 自治体が、同システムによる申請・届出の受理の準備が完了するまでの間は、経過措置として、従前の例により申請・届出の受理を行う。自治体は、令和8年3月31日までの間に、同システムによる申請・届出の受理の準備を完了しなければならない。

【A】介護保険法施行規則の一部を改正する省令(令和5年3月31日厚生労働省令第46号) 

【B】指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準等の一部を改正する告示(令和5年3月31日厚生労働省告示第125号)

  • インターネット官報(令和5年3月31日(号外 第68号)は、こちら 【A】【B】
  • (厚生労働省)法令等データベースサービス -登載準備中の新着法令-は、こちら(老健局・令和5年4月3日掲載)※登載後は削除

 【A】の省令で新設された第165条の7「申請等の手続における電子情報処理組織の使用」の規定は、以下のとおりです。( )書きでは、「やむを得ない事情」があって「電子申請・届出システム」を使用できない場合は、「電子メールの利用その他の適切な方法」を認めていますが、この取扱いができるのは「届出」の場合であって、「申請」の場合は該当しないことになります。

(申請等の手続における電子情報処理組織の使用)

第165条の7 次に掲げる申請、申出又は届出(以下この条において「申請等」 という。 ) は、厚生労働省の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。以下この条において同じ。)と申請等を行おうとする者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織を使用する方法であって、当該電気通信回線を通じて情報が送信され、厚生労働省の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該情報が記録されるもの(やむを得ない事情により当該方法による届出を行うことができない場合にあっては、電子メールの利用その他の適切な方法とする。)により提出しなければならない。

【編】以下、申請、申出、届出に係る該当条項を記載する第一号から第三号は省略

 

「電子申請・届出システム」の自治体での導入見込み

 「電子申請・届出システム」は、厚生労働省が運用する「介護サービス情報公表システム」の機能を拡張し、指定申請機能などのウェブ入力・電子申請を可能とするもので、令和4年度下半期から運用が開始され、順次、利用する自治体が拡大することになっています。

 令和4年度に、厚生労働省は、各自治体での「電子申請・届出システム」の利用開始時期について調査を行っていますが、令和5年2月17日時点での回答状況は次のとおりでした。

 令和4年度下半期  1.7%
 令和5年度上半期  5.2%
 令和5年度下半期 14.2%
 令和6年度上半期 12.3%
 令和6年度下半期 30.3%
 令和7年度上半期  0.4%
 令和7年度下半期  1.8%
 その他        13.9% 

 「電子申請・届出システム」の使用を原則とする規定の施行期日は、令和6年4月1日ですが、その時点で導入が完了している自治体は2~3割に過ぎない状況が窺えます。

厚生労働大臣が定める様式の使用

 申請や届出で使用する様式を「厚生労働大臣が定める様式」に統一することについて、一部の様式では、自治体がこれまで一定の理由から独自の様式を使用し、あるいは独自の記入方法を指導していた経緯があるため、厚生労働省から実態に即して精査した様式や記入方法が示されない場合には、混乱が生じる恐れもあります。

 例えば、訪問介護の「従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表」で、管理者とサービス提供責任者が兼務する場合の記入方法など、厚生労働省の現在の参考様式には何ら記載されていません。

 このため、自治体の現場では、個別具体的な事業所からの問い合わせに対応して、記入方法について次のように異なる指導を行う場合があるようです。

  • 管理者とサービス提供責任者の勤務時間を明確に区分して、「管理者とサービス提供責任者で2行に分けて」、それぞれの勤務時間を記入するよう指導する。
  • 管理者の職務とサービス提供責任者の職務は実態として同時並行的に行われていることや、小規模の事業所ではそれぞれの職務に従事する時間を明確に区分することが困難と考えられることなどの理由から、それぞれの職務に従事する時間は区分しなくても差し支えないとし、「管理者(兼)サービス提供責任者として1行にまとめて」記入するよう指導する。

 いずれにしても、厚生労働省の考え方が明確になっていないことに起因するものですが、今後提示される「従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表」で、その取扱いが明確になることを期待するものです。

 また、現在の参考様式には、サービス提供責任者の配置基準の適合を確認するための「利用者数」の欄がありますが、次の場合にどのようにカウントするのかについては何ら説明がありません。

  • 障害福祉サービスの「居宅介護」などのサービスも一体的に運営し、サービス提供責任者が兼務している場合、「居宅介護」などのサービスの利用者も含めるのか、含めないのか。
  • 第1号訪問事業の「旧介護予防訪問介護相当サービス」や「訪問型サービスA」(旧介護予防訪問介護にかかる基準よりも緩和した基準によるサービス)も一体的に運営し、サービス提供責任者(訪問事業責任者)が兼務している場合、第1号訪問事業の利用者も含めるのか、含めないのか。

 このほかにも、現在の参考様式に、訪問介護員等の配置基準「常勤換算方法で2.5人以上」を確認するための「人員基準の確認(訪問介護員)」の欄があり、非常勤(登録)の訪問介護員等の常勤換算については、当該月の勤務時間数の合計から常勤換算後の人数を計算し、常勤の訪問介護員等の人数と合計して、適合状況を確認する様式となっています。

 しかし、基準では、非常勤(登録)の訪問介護員等の常勤換算については、サービス提供の実績がある事業所の場合、前年度の週当たりの平均稼働時間(サービス提供時間+移動時間)から算出する取扱いになっていますので、厚生労働省の参考様式を使用した場合、誤った判断を行ってしまう懸念もあります。

 単に、「様式」のみを統一するといった形式的な事務負担の軽減ではなく、具体的な「記入方法」も含めて、厚生労働省が基準や通知、Q&Aで示している人員基準の考え方に沿って分かりやすく記入できるような、また、明確になっていない部分については考え方を明らかにするような、実質的な事務負担を軽減する見直しが必要ではないかと思われます。

 厚生労働省が示す「従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表」は、運営指導で従業者の人員基準の適合状況を確認するためにも使用することになると思われるため、人員基準に適合していることが正確にチェックできる様式・記入方法の整備が望まれます。

 

【補足】

 介護保険法の一部改正を含む「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」については、令和5年4月13日に衆議院本会議で可決され、今後は、参議院で審議が行われます。

 衆議院の厚生労働委員会では、3月/22日・29日、4月/4日・5日・12日に審議が行われました。「衆議院インターネット審議中継」のサイトに、動画が掲載されていますが、時間がないので審議内容の確認はできていません。そのうち、衆議院のサイトに会議録が掲載されますので、そのときに改めて確認したいと思います。