介護サービス基準のパズル

介護サービスの基準・解釈通知・Q&Aを読み解く ~まずは「訪問介護」の基準から~

ヘルパー「常勤換算2.5人以上」の計算の壁

 訪問介護の人員基準に、「訪問介護員等の員数は、常勤換算方法で2.5以上とする」という規定があります。

 常勤の訪問介護員等(以下「ヘルパー」)を「3人以上」配置している事業所では、この規定に適合していることは明らかですので、非常勤(登録)のヘルパーを常勤換算しなくても、問題は生じません。

 しかし、常勤1人~2人のほかに非常勤のヘルパーを配置している小規模の事業所では、非常勤のヘルパーの常勤換算の結果によっては配置基準を満たさなくなるため、常勤換算について正確に計算する必要があります。

 また、常勤ヘルパー「3人以上」配置の事業所でも、特定事業所加算のⅠ、Ⅱ、Ⅴを算定している事業所では、ヘルパーの「資格・研修修了者の割合の要件」や「勤続年数の要件」の適合状況を確認するために、非常勤のヘルパーを常勤換算することが必要になってきます。

 しかし、この常勤換算方法で正確に計算するに当たっては、次の2つの大きな「壁」があります。

【1】管理者がサービス提供責任者を兼務する場合の「ヘルパーとしての勤務時間」の取扱い

 管理者がサービス提供責任者を兼務する場合のヘルパーとしての勤務時間については、自治体によって、次のように異なる取扱いが行われているようです。

  • 管理者とサービス提供責任者の職務に従事する時間を明確に区分する。 → ヘルパーとしての勤務時間は、サービス提供責任者の職務に従事する時間のみとする。
  • 管理者の職務とサービス提供責任者の職務は実態として同時並行的に行われていることや、小規模の事業所ではそれぞれの職務に従事する時間を明確に区分することが困難と考えられることなどの理由から、それぞれの職務に従事する時間は区分しなくても差し支えない。 → ヘルパーとしての勤務時間は、サービス提供責任者の職務に従事する時間だけでなく、管理者の職務に従事する時間も含めて差し支えない。したがって、ヘルパーとして「常勤1」とする。

 このことについて、厚生労働省の通知やQ&Aには、明確な回答は示されていません。

【2】「常勤換算に当たっての勤務時間」と「労働法規上の労働時間」との違い

 常勤換算に当たっては、非常勤のヘルパーの勤務延時間数(前年度の週当たりのサービス提供時間及び移動時間)を計算しますが、その勤務時間の範囲は、以下のとおり、労働法規上の労働時間とは異なった取扱いになっているものがあります。

 また、「常勤換算に当たっての勤務時間」には移動時間が含まれることから、「訪問介護費での所要時間」と必ずしも一致するものではありません。

〇直接的な訪問介護サービスの提供時間

・労働法規上の労働時間は、「実際に行われた訪問介護の時間」

・訪問介護費での所要時間は、「訪問介護計画に位置付けられた標準的な時間」

・では、常勤換算に当たっての勤務時間は? 実際の訪問介護の時間で計算するのか、訪問介護計画に位置付けられた標準的な時間で計算するのか? 

〇介護保険給付の対象とはならない保険外のサービスに従事した時間

・労働法規上の労働時間には、含まれる。

・常勤換算に当たっての勤務時間には、含まれない。

〇待機時間

・労働基準法では、使用者が急な需要等に対応するため事業所等で待機を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていない場合には、労働時間に該当する。

・通知(総論)の「勤務延時間数」の定義では「待機の時間」が含まれるが、通知(訪問介護の人員基準)の「登録訪問介護員等の勤務時間数」は「サービス提供時間及び移動時間」であり、待機時間は含まれない。

 

 上記の例からも分かるように、「労働法規上の労働時間」と「常勤換算に当たっての勤務時間」と「訪問介護費での所要時間」は、それぞれ異なる時間となります。

 このため、非常勤のヘルパーの勤務時間については、厳密に考えた場合、①労働基準法で把握が必要な労働時間、②訪問介護員等の配置基準を確認するための勤務時間、それぞれについて正確に計算することが必要になってきます。

 こういった、労働時間・勤務時間を二重に管理することなど、小規模の事業所では現実的に可能なのでしょうか。

 事業所の事務負担軽減の観点から、「常勤換算に当たっての勤務時間」の計算方法を、もう少し効率化・簡素化することなども検討する必要があるのではないかと考えます。

 

【参考】詳しくは、「解説 訪問介護の基準」のp268~269で解説しています。