介護サービス基準のパズル

介護サービスの基準・解釈通知・Q&Aを読み解く ~まずは「訪問介護」の基準から~

介護保険制度の「令和6年度改定」に向けた動き【4】

【介護保険法の改正】

 介護保険法の一部改正を含む「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」が、5月12日の国会で賛成多数で可決成立し、5月19日に令和5年法律第31号として公布されました。

 同日、厚生労働省からは、「「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」の公布について」の通知が発出されています。

  • 通知全文は、こちら(介護保険最新情報vol.1153)

 介護保険法の一部改正の内容については、以下のとおりです。一部を除いて、令和6年4月1日から施行となります。

 

①介護サービス事業所・施設における生産性の向上

〇都道府県の責務として、介護サービスを提供する事業所・施設における業務の効率化、介護サービスの質の向上その他の生産性の向上に資する取組が促進されるように、新たな努力義務を規定する。(第5条第3項関係) 

〇都道府県介護保険事業支援計画、 市町村介護保険事業計画で定めることが努力義務と位置付けられている事項に、「介護給付等対象サービスの提供等のための事業所・施設における業務の効率化、介護サービスの質の向上その他の生産性の向上に資する取組(市町村介護保険事業計画では、都道府県と連携した取組)に関する事項」を追加する。(第118条第3項、第117条第3項関係)

(国及び地方公共団体の責務)
第5 国は、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるよう保健医療サービス及び福祉サービスを提供する体制の確保に関する施策その他の必要な各般の措置を講じなければならない。

 都道府県は、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるように、必要な助言及び適切な援助をしなければならない。

 都道府県は、前項の助言及び援助をするに当たっては、介護サービスを提供する事業所又は施設における業務の効率化、介護サービスの質の向上その他の生産性の向上に資する取組が促進されるよう努めなければならない。【新設】

4・5 (略)

 

②地域密着型サービスの「複合型サービス」の定義の見直し

〇現在、介護保険法施行規則第17条の12で規定している「看護小規模多機能型居宅介護」を、介護保険法第8条第23項の「複合型サービス」の中で規定するとともに、他のサービス種別については省令で定める旨を規定する。(第8条第23項関係)

第8条 (略)
23 この法律において「複合型サービス」とは、居宅要介護者について、訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、短期入所療養介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護又は小規模多機能型居宅介護を二種類以上組み合わせることにより提供されるサービスのうち、次に掲げるものをいう。

一 訪問看護及び小規模多機能型居宅介護を一体的に提供することにより、居宅要介護者について、その者の居宅において、又は第19項【編注:小規模多機能型居宅介護の定義】の厚生労働省令で定めるサービスの拠点に通わせ、若しくは短期間宿泊させ、日常生活上の世話及び機能訓練並びに療養上の世話又は必要な診療の補助を行うもの【新設】
二 前号に掲げるもののほか、居宅要介護者について一体的に提供されることが特に効果的かつ効率的なサービスの組合せにより提供されるサービスとして厚生労働省令で定めるもの【新設】

(編注) 改正後の第23項の本文の「次に掲げる」は、改正前は「訪問看護及び小規模多機能型居宅介護の組合せその他の居宅要介護者について一体的に提供されることが特に効果的かつ効率的なサービスの組合せにより提供されるサービスとして厚生労働省令で定める」と規定していたもの。

※上記の第二号は、社会保障審議会介護保険部会の「介護保険制度の見直しに関する意見」で、「複数の在宅サービス(訪問や通所系サービスなど)を組み合わせて提供する複合型サービスの類型などを設けることも検討することが適当である」という考えが示されたことを受けて新設されたもので、今後、新たなサービス種別が省令で具体的に規定されることになると思われる。

 

③地域包括支援センターの業務の見直し

【指定介護予防支援事業者の対象拡大等】

〇現在、介護予防支援事業者の指定は、地域包括支援センターの設置者に限定されており、省令で、指定介護予防支援事業者が行う業務の一部を指定居宅介護支援事業者に委託することが可能となっている。
 今回の改正では、介護予防支援事業者の指定申請について、地域包括支援センターの設置者に加えて、指定居宅介護支援事業者も直接行うことができるものとするもの。(第115条の22第1項関係)

〇市町村長は、介護予防サービス計画の検証の実施に当たって必要があると認めるときは、指定介護予防支援事業者に対し、当該計画の実施状況その他の厚生労働省令で定める事項に関する情報の提供を求めることができるものとする。(第115条の30の2第1項関係)

 【包括的支援事業の委託規定の見直し】
〇地域包括支援センターの設置者は、包括的支援事業(介護保険法第115条の45第2項)のうち「総合相談支援事業」(同項第1号)の一部を、指定居宅介護支援事業者その他の厚生労働省令で定める者に対し委託することができるものとする。(第115条の47第4項関係)

 

④介護サービス事業者経営情報の調査及び分析

〇今回の改正で、「第5章 介護支援専門員並びに事業者及び施設」に、「第11節 介護サービス事業者経営情報の調査及び分析等」を設けて、新たに以下の第115条の44の2を規定するもの。

〇都道府県知事は、地域において必要とされる介護サービスの確保のため、介護サービス事業者(厚生労働省令で定める者を除く。以下同じ。)の事業所・施設ごとの収益・費用その他の厚生労働省令で定める事項(以下「介護サービス事業者経営情報」という。)について、調査及び分析を行い、その内容を公表するよう努めるものとする。(第115条の44の2第1項関係)

〇介護サービス事業者に対して、「介護サービス事業者経営情報」の都道府県知事への報告を義務付ける。(第115条の44の2第2項関係)
※一定の事業者は対象外とされているため、今後、省令で具体的に対象外となる事業者が規定されると思われる。

〇厚生労働大臣は、「介護サービス事業者経営情報」を収集・整理し、その分析結果を国民にインターネット等の利用を通じて迅速に提供することができるよう必要な施策を実施する。(第115条の44の2第3項関係)

〇介護サービス事業者に義務付けた「介護サービス事業者経営情報」の報告に関し、報告拒否・虚偽報告の場合の対応として、①都道府県知事は事業者に対して、報告や報告内容の是正を命令することができること、②事業者がこの命令に従わないときは、都道府県知事は、a)自ら指定・許可した事業者に対して、指定・許可の取消しや指定・許可の全部又は一部の効力を停止することができること、b)市町村が指定した事業者については、指定の取消しや指定の全部又は一部の効力を停止することが適当であると認めるときは、その旨を市町村長に通知すること―について規定する。(第115条の44の2第6項~第9項関係)(介護サービス情報公表制度と同様)

第115条の44の2 都道府県知事は、地域において必要とされる介護サービスの確保のため、当該都道府県の区域内に介護サービスを提供する事業所又は施設を有する介護サービス事業者(厚生労働省令で定める者を除く。以下この条において同じ。)の当該事業所又は施設ごとの収益及び費用その他の厚生労働省令で定める事項(次項及び第3項において「介護サービス事業者経営情報」という。)について、調査及び分析を行い、その内容を公表するよう努めるものとする。

 介護サービス事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、介護サービス事業者経営情報を、当該事業所又は施設の所在地を管轄する都道府県知事に報告しなければならない。

 厚生労働大臣は、介護サービス事業者経営情報を収集し、整理し、及び当該整理した情報の分析の結果を国民にインターネットその他の高度情報通信ネットワークの利用を通じて迅速に提供することができるよう必要な施策を実施するものとする。

 厚生労働大臣は、前項の施策を実施するため必要があると認めるときは、都道府県知事に対し、当該都道府県の区域内に介護サービスを提供する事業所又は施設を有する介護サービス事業者の当該事業所又は施設に係る活動の状況その他の厚生労働省令で定める事項に関する情報の提供を求めることができる。

 都道府県知事は、前項の規定による厚生労働大臣の求めに応じて情報を提供するときは、電磁的方法その他の厚生労働省令で定める方法によるものとする。

6~9 (略)

 衆議院厚生労働委員会での質疑(令和5年3月29日、4月5日)では、「介護サービス事業者の経営情報の報告」について、次のとおり厚生労働省老健局長が答弁している。

【経営情報を開示したくない事業者の立場を考えた制度になっているかの確認】
・事業者の特定につながらないように、昨年12月に取りまとめられた介護保険部会の意見書においても、介護サービス事業者から届け出られた個別の事業所の内容を公表するのではなく、グルーピングした分析結果を公表することが適当というふうにされているところ。
・分析結果の公表の詳細については、例えば、先行して取組が進められている社会福祉法人においては、独立行政法人福祉医療機構の社会福祉法人の財務諸表等電子開示システムにおいて、サービス活動収益の規模別の法人の割合などが公表されているので、そういうものも踏まえつつ、今後、施行に向けて検討していく。

【経営情報の報告の方法】
・介護サービス事業者の経営情報について、厚労省が新たに整備するシステムにおいて、主として各事業所、施設において作成されている損益計算書の内容を電子的に提出いただくことを想定している。
・事業者の事務負担が可能な限り増えないような方策を検討していくことが重要と考えており、例えば、事業主体によって会計基準が異なるものが適用されているが、新たにこの報告のためにまた様式を作って、それでやるという形ではなくて、国が構築するシステム上で、それぞれの事業者が用意される会計基準に沿った勘定項目を対応させていくといった方向での運用とか、介護サービス事業者から別の機会に報告を求めているような情報もある。そういうものについては、情報連携により、重複して報告をするようにはしないといったことを検討している。

【省令で定める義務付けの対象外となる事業者】
・省令で義務づけの対象外となる事業者を定めることとしており、ここは、過度な事務負担が生じないようにする観点から、事業者の規模なども含めて検討していく。

 

⑤介護情報の収集・提供等に係る事業の創設

〇市町村が行う地域支援事業に、被保険者の保健医療の向上及び福祉の増進を図るため、被保険者、介護サービス事業者その他の関係者が被保険者に係る情報を共有し、活用することを促進する事業を追加する。(第115条の45第2項関係)

 ※これは、現在、利用者に関する介護レセプト情報や要介護認定情報、LIFE(科学的介護情報システム)情報などが、事業所や自治体等に分散していることから、これらの情報を利用者・自治体・事業者・医療機関等が電子的に利活用できる情報基盤を整備するために、保険者である市町村の事業として位置付けるもの。

※この規定の施行期日は、「公布の日から起算して4年を超えない範囲内において政令で定める日」とされている。

 

⑥介護保険事業計画の見直し(略)

 

【介護給付費分科会での検討がスタート】

 5月24日に開催された「社会保障審議会介護給付費分科会」では、「令和6年度介護報酬改定に向けた今後の検討の進め方について」、以下の(案)が示されました。
 今後、以下のスケジュールに沿って、介護報酬や人員・設備・運営基準について、具体的な検討が行われていきます。

〇令和6年度介護報酬改定に向けては、診療報酬との同時改定であることや新型コロナウイルス感染症への対応の経験等を踏まえ、令和3年度介護報酬改定に関する審議報告及び令和4年社会保障審議会介護保険部会意見書における指摘などに基づき、各サービス種類毎の論点とあわせ、例えば以下のような分野横断的なテーマを念頭に置き、議論してはどうか。
 ・地域包括ケアシステムの深化・推進
 ・自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進
 ・介護人材の確保と介護現場の生産性の向上
 ・制度の安定性・持続可能性の確保

【スケジュール案】
令和5年
6月~夏頃:主な論点について議論 
9月頃:事業者団体等からのヒアリング
10~12月頃:具体的な方向性について議論
12月中:報酬・基準に関する基本的な考え方の整理・とりまとめ
※地方自治体における条例の制定・改正に要する期間を踏まえて、基準に関しては先行してとりまとめを行う。
令和6年
1月頃 介護報酬改定案 諮問・答申

 この介護給付費分科会で示された「【資料1】介護分野の最近の動向」には、次の項目が分かりやすく整理されていますので、介護保険の現状を理解する上で、非常に参考になると思われます。

1.介護保険を取り巻く状況
2.令和3年度介護報酬改定について
3.令和4年度介護報酬改定による処遇改善について
4.令和5年度介護保険法改正について
5.新型コロナウイルス感染症への対応について
6.指摘事項等について

  • 介護給付費分科会(5月24日)の資料は、こちら

【参考】 令和3年度改定の流れ
令和3年
1月13日 人員・設備・運営基準の改定についての諮問・答申
1月18日 介護報酬の改定についての諮問・答申
1月25日 人員・設備・運営基準の省令改正
3月15日 介護報酬の告示改正
3月16日 基準通知、費用通知の一部改正についての通知発出
3月19日 介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)の発出