介護サービス基準のパズル

介護サービスの基準・解釈通知・Q&Aを読み解く ~まずは「訪問介護」の基準から~

利用者の「同意」は、口頭でいい?

 介護保険サービスの運営基準では、重要事項説明書や個別サービス計画などにおける利用者等への説明・同意が義務付けられています。また、加算でも、利用者等の同意を得ていることを算定要件の一つに含めているものがあります。

 以下では、訪問介護を中心に、利用者等から同意を得ることを義務付けている運営基準や加算について、同意を得る手続きの違いに着目して、見ていきます。

【運営基準】

①重要事項説明書における利用者等への説明・同意

(基準省令第8条第1項)重要事項を記した文書を交付して説明を行い、当該提供の開始について利用申込者の同意を得なければならない。

(基準通知)同意については、利用者及び指定訪問介護事業者双方の保護の立場から書面によって確認することが望ましい

②通常の事業の実施地域以外の地域の居宅で訪問介護を行う場合に、交通費の支払を受けることの利用者等への説明・同意

(基準省令第20条第4項)あらかじめ、利用者又はその家族に対し、当該サービスの内容及び費用について説明を行い、利用者の同意を得なければならない。

③訪問介護計画の作成に当たっての利用者の同意

(基準省令第24条第3項)訪問介護計画の作成に当たっては、その内容について利用者又はその家族に対して説明し、利用者の同意を得なければならない。 

【参考】

  • 居宅介護支援では、居宅サービス計画は「文書による同意」を義務付けています。
  • 居宅サービスのうち、特定施設入居者生活介護でも、特定施設サービス計画は「文書による同意」を義務付けています。

④サービス担当者会議等で利用者・家族の個人情報を使用する場合の同意

(基準省令第33条第2項)サービス担当者会議等において、利用者の個人情報を用いる場合は利用者の同意を、利用者の家族の個人情報を用いる場合は当該家族の同意を、あらかじめ文書により得ておかなければならない。

 訪問介護の運営基準では、「文書による同意」を義務付けているのは、個人情報を使用する場合の同意だけで、そのほかの同意については、同意は必要とするものの、その手段については何ら規定していません。

 重要事項説明書であっても、「書面によって確認することが望ましい」との取扱いを示していますが、文書による同意まで義務付けているものではありません。

 したがって、個人情報を使用する場合の同意を除いたその他の同意について、文書で同意を得ていないからといって、直ちに、基準に適合していないとは言い切れないと考えられますので、注意が必要です。

 もっとも、多くの事業所では、①~④の同意については、文書で同意を得ている場合が多く、利用者から「署名(自筆で氏名をサイン)」や「署名+押印」、「記名押印(パソコンで入力・印刷した氏名に、本人が印鑑を押す)」を受ける方法で行われているのが一般的です。この場合には、利用者の同意を得ていることが明らかですので、何ら問題は生じません。

 では、文書での同意が確認できない場合に、利用者の同意を得ていることをどのように確認することになるのでしょうか。

 このことについて、基準省令や基準通知には何も示されていませんが、厚生労働省が示す個別サービス計画の様式例の改正から、その考え方を読み解くことができます。

 厚生労働省は、訪問リハ、通所介護、通所リハでの個別サービス計画書の様式例を、通知の中で示していますが、令和3年度の改正で、次のようにその取扱いを変更しています。

(改正前)
 計画の様式例に署名欄あり
(改正後)
 計画の様式例の署名欄を削除し、
 通所介護計画書では、「説明者」と「説明・同意日」の記入欄を追加
 リハビリテーション計画書では、「利用者・ご家族への説明」の年月日の記入欄のみに変更

 このことから、説明して同意を得たこと、同意を得た日などが記録に残っていれば、利用者の同意を得たことになるのではないかと考えられます。

 

【補足】

 訪問看護計画書の様式例も、厚生労働省は示していますが、こちらの計画書には、従来から、署名欄や説明・同意日の記入欄はなく、「計画に基づきサービスの提供を実施する」こととし、日付を記載する様式となっています。

 なお、理学療法士等による訪問看護の場合の訪問看護計画書の説明・同意については、次のQ&Aが出ています。

 理学療法士等による訪問看護はその訪問が看護業務の一環としてのリハビリテーションを中心としたものである場合に看護職員の代わりに訪問させるものであること等を説明した上で利用者の同意を得ることとなったが、同意書の様式はあるのか。(以下略)

 同意に係る様式等は定めておらず、方法は問わないが、頭の場合には同意を得た旨を記録等に残す必要がある。また、すでに理学療法士等による訪問看護を利用している者についても、速やかに同意を得る必要がある。

h30.3.23 介護保険最新情報 Vol.629

 

【加算】

①2人の訪問介護員等による訪問介護(身体介護・生活援助)

(利用者等告示第三号)2人の訪問介護員等により訪問介護を行うことについて利用者又はその家族等の同意を得ている場合

②中山間地域等における小規模事業所加算

(費用留意事項通知)利用者に事前に説明を行い、同意を得てサービスを行う必要がある。

③緊急時訪問介護加算・初回加算

(Q&A)その都度、利用者からの同意を必要とするものではないが、居宅サービス基準第8条に基づき、事前にそれぞれの加算の算定要件及び趣旨について、重要事項説明書等により利用者に説明し、同意を得ておく必要がある。

 加算では、「文書による同意」を義務付けているものはなく、同意は必要とするものの、その手段についての規定はありません。

 訪問介護以外の他のサービス種別で、個別加算に係る計画の同意に関するQ&Aが出ていますので、参考に見てみます。

 

【Q&A①】口腔機能改善管理指導計画の説明・同意(通所介護、通所リハ)

 口腔機能向上サービスの開始又は継続にあたって必要な同意には、利用者又はその家族の自署又は押印は必ずしも必要ではないと考えるが如何。

 口腔機能向上サービスの開始又は継続の際に利用者又はその家族の同意を口頭で確認し、口腔機能改善管理指導計画又は再把握に係る記録等に利用者又はその家族が同意した旨を記載すればよく、利用者又はその家族の自署又は押印は必須ではない。

h21.3.23 介護保険最新情報 Vol.69

【Q&A②】栄養ケア計画の説明・同意(通所介護、通所リハ)

 栄養改善サービスに必要な同意には、利用者又はその家族の自署又は押印は必ずしも必要ではないと考えるが如何。

 栄養改善サービスの開始などの際に、利用者又はその家族の同意を口頭で確認した場合には、栄養ケア計画などに係る記録に利用者又はその家族が同意した旨を記載すればよく、利用者又はその家族の自署又は押印は必須ではない。

h21.4.17 介護保険最新情報 Vol.79

【Q&A③】リハビリテーション計画の説明・同意(訪問リハ、通所リハ)

 リハビリテーションマネジメント加算(A)及び(B)の算定要件について、「リハビリテーション計画について、利用者又はその家族に対して説明し、利用者の同意を得ること」とあるが、当該説明等は利用者又は家族に対して、電話等による説明でもよいのか。

 ・ 利用者又はその家族に対しては、原則面接により直接説明することが望ましいが、遠方に住む等のやむを得ない理由で直接説明できない場合は、電話等による説明でもよい。
・ ただし、利用者に対する同意については、書面等で直接行うこと

r3.3.23 介護保険最新情報 Vol.948 (h27.4.1発出のQ&Aについて、Qの文中の加算名称を修正したもの)

 Q&Aでは、③を除いて、同意を口頭で確認した場合には、計画等の記録に「同意した旨を記載」すればよいとしていますので、訪問介護での上記の加算でも、この取扱いで差し支えないと考えられます。

 Q&A③のみ、「書面等での同意」を義務付けていますが、報酬告示や留意事項通知で規定していないことについて、Q&Aの事務連絡でいきなりハードルを上げるのは、イレギュラーな感じがします。

 この算定要件「リハビリテーション計画について、利用者又はその家族に対して説明し、利用者の同意を得ること」は、厚生労働大臣が定める基準(告示)第十二号、第二十五号に規定していますが、この告示基準では、同意の手段について「文書での同意」とは規定していません。

 そうであるならば、重要事項説明書に係る基準通知での取扱いと同様に、せいぜい「書面によって確認することが望ましい」といったQ&Aにとどめておくのがよかったのではないかと考えます。

 

 結論として、上記の運営基準の同意(個人情報を使用する場合の同意は除く)であっても、加算に係る同意であっても、文書での同意が確認できない場合には、口頭で説明して同意を得たこと、同意を得た日などが記録に残っていて、同意を得たことが明らかになっていれば、利用者の同意を得たことになると考えられます。 

 

【参考1】

利用者の同意が「押印のみ」の場合

 「文書で同意を得ている場合、利用者から「署名」や「署名+押印」、「記名押印」を受ける方法で行われているのが一般的」と説明しましたが、「押印だけ」の場合は、どうでしょうか。

 「押印廃止」の流れに逆行するような取扱いですが、実際に、押印で同意を得ている現状もありますので、確認しておきたいと思います。

 このことについては、「押印についてのQ&A(令和2年6月19日内閣府・法務省・経済産業省)」の「問2.押印に関する民事訴訟法のルールは、どのようなものか。」の答えの中に示されていますので、以下に引用しておきます。

・ 民事裁判において、私文書が作成者の認識等を示したものとして証拠(書証)になるためには、その文書の作成者とされている人(作成名義人)が真実の作成者であると相手方が認めるか、そのことが立証されることが必要であり、これが認められる文書は、「真正に成立した」ものとして取り扱われる。民事裁判上、真正に成立した文書は、その中に作成名義人の認識等が示されているという意味での証拠力(これを「形式的証拠力」という。)が認められる。
・ 民訴法第228条第4項には、「私文書は、本人[中略]の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」という規定がある。この規定により、契約書等の私文書の中に、本人の押印(本人の意思に基づく押印と解釈されている。)があれば、その私文書は、本人が作成したものであることが推定される。
・ この民訴法第228条第4項の規定の内容を簡単に言い換えれば、裁判所は、ある人が自分の押印をした文書は、特に疑わしい事情がない限り、真正に成立したものとして、証拠に使ってよいという意味である。そのため、文書の真正が裁判上争いとなった場合でも、本人による押印があれば、証明の負担が軽減されることになる。
・ もっとも、この規定は、文書の真正な成立を推定するに過ぎない。その文書が事実の証明にどこまで役立つのか(=作成名義人によってその文書に示された内容が信用できるものであるか)といった中身の問題(これを「実質的証拠力」という。)は、別の問題であり、民訴法第228条第4項は、実質的証拠力については何も規定していない。

 

【参考2】

居宅介護支援の運営基準で、利用者からの「署名」を義務付けている例

 居宅介護支援でも、「重要事項説明書における利用者等への説明・同意」については、訪問介護などの場合と同様に、「同意については、利用者及び事業者双方の保護の立場から書面によって確認することが望ましい」としていますが、次の①②の内容の説明に限っては、利用者が理解したことについて、必ず「利用者から署名を得る」ことを義務付けています。

利用者から介護支援専門員に対して複数の指定居宅サービス事業者等の照会を求めることや、居宅サービス計画原案に位置付けた指定居宅サービス事業者等の選定理由の説明を求めることが可能であることについての説明

② 1) 前6月間に当該居宅介護支援事業所において作成された居宅サービス計画の総数のうちに訪問介護、通所介護、福祉用具貸与及び地域密着型通所介護(以下「訪問介護等」という。)がそれぞれ位置付けられた居宅サービス計画の数が占める割合、2) 前6月間に当該居宅介護支援事業所において作成された居宅サービス計画に位置付けられた訪問介護等ごとの回数のうちに同一の指定居宅サービス事業者又は指定地域密着型サービス事業者によって提供されたものが占める割合(上位3位まで)についての説明

(指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準 第4条第2項)指定居宅介護支援事業者は、指定居宅介護支援の提供の開始に際し、あらかじめ、居宅サービス計画が第1条の2に規定する基本方針及び利用者の希望に基づき作成されるものであり、利用者は複数の指定居宅サービス事業者等を紹介するよう求めることができること、前6月間に当該指定居宅介護支援事業所において作成された居宅サービス計画の総数のうちに訪問介護、通所介護、福祉用具貸与及び地域密着型通所介護(以下この項において「訪問介護等」という。)がそれぞれ位置付けられた居宅サービス計画の数が占める割合、前6月間に当該指定居宅介護支援事業所において作成された居宅サービス計画に位置付けられた訪問介護等ごとの回数のうちに同一の指定居宅サービス事業者又は指定地域密着型サービス事業者によって提供されたものが占める割合等につき説明を行い、理解を得なければならない

(基準通知)この内容を利用者又はその家族に説明を行うに当たっては、理解が得られるよう、文書の交付に加えて口頭での説明を懇切丁寧に行うとともに、それを理解したことについて必ず利用者から署名を得なければならない