介護サービス基準のパズル

介護サービスの基準・解釈通知・Q&Aを読み解く ~まずは「訪問介護」の基準から~

文書の「作成・保存」「同意」に関する電磁的対応の調査結果

 令和3年度の改定で、文書の作成・保存を電磁的記録で行ったり、文書の交付・同意などを電磁的方法で行うことが可能となりましたが、その利用状況を調査した結果が報告されていましたので、その一部を紹介します。

 調査を行ったのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社で、厚生労働省の「老人保健健康増進等事業」の補助を受け、「文書負担軽減や手続きの効率化等による介護現場の業務負担軽減に関する調査研究事業」として実施されたものです。

 令和5年3月に、この調査研究事業の報告書が公表されています。

  •  報告書は、こちら (三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

 調査対象は、訪問介護、通所介護、地域密着型通所介護、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、居宅介護支援ですが、以下では、訪問介護、通所介護、居宅介護支援に絞って、「利用者ごとの記録、介護報酬請求に係る文書について、事業所のパソコンで作成し、電子ファイルのみで保存している事業所の割合」と「利用者又は家族への説明・同意における電磁的方法の利用状況」について、一部加工して整理しています。

 この調査は、介護サービス情報公表システムデータのオープンデータ(令和4年6月末時点分)から、サービス種類別に500事業所を無作為抽出して、調査票を送付し、令和4年10月~12月に実施されたものです。回収数は次のとおりで、それほど事業所数は多くない調査結果ですので、それを踏まえて数字を見る必要があります。 
・訪問介護 178 
・通所介護 206 
・居宅介護支援 252 

【利用者ごとの記録、介護報酬請求に係る文書について、事業所のパソコンで作成し、電子ファイルのみで保存している事業所の割合】

 事業所で作成・保存する文書について、パソコンで作成し電子ファイルでのみ保存しているか、パソコンや手書きで作成し紙で保存しているか、平成28年9月時点と令和4年9月時点とを比較して調査が行われました。

 もっとも、平成28年9月時点で事業所が「未開設・休止中」であった割合が2割~3割ありますので、単純な比較はできないと思われます。

 文書をパソコンで作成し、「電子ファイルのみ」で保存している事業所の割合を整理したものが、次の表になります。

  訪問介護 通所介護 居宅介護支援
h28.9 r4.9 h28.9 r4.9 h28.9 r4.9
重要事項説明書 0.0% 1.1% 0.0% 1.5% 0.0% 0.8%
計画書 0.0% 1.7% 0.5% 4.4% 0.0% 0.8%
個人情報同意書 0.0% 1.1% 0.0% 1.0% 0.0% 0.8%
アセスメントシート 1.1% 10.1% 0.5% 7.8% 2.4% 7.9%
サービス担当者会議記録 1.1% 9.0% 0.5% 5.3% 2.0% 7.1%
支援経過記録         8.7% 23.4%
サービス提供記録票 2.2% 19.1% 1.0% 14.1%    
モニタリングシート 1.7% 10.7% 0.5% 10.2% 7.9% 21.4%
介護給付費明細書 8.4% 21.3% 6.3% 20.9% 7.1% 23.4%
サービス提供票・利用票 2.8% 11.8% 1.5% 9.2% 2.4% 3.6%
給付管理票         9.1% 23.8%

 「サービス提供記録票」や「支援経過記録」「モニタリングシート」「介護給付費明細書」などは、「電子ファイルのみ」で保存している事業所の割合が増加している傾向が窺えます。これは、パソコンで作成し紙でも出力していたものについて、保管が必要な紙の文書量が増えてきたことから、紙での出力を止め、電子ファイルでのみ保存するようになったことも影響しているのではないかと推測されます。

 一方、「重要事項説明書」や「計画書」「個人情報同意書」については、僅かに増えている程度です。こちらの文書もパソコンで作成しているところがほとんどと思われますので、電子ファイルだけでなく、依然として紙でも保存している事業所が多いことを表していると考えられます。

【利用者又は家族への説明・同意における電磁的方法の利用状況 r4.9

  訪問介護 通所介護 居宅介護支援
全て署名を取得している 95.5% 95.6% 98.8%
電子メールを利用している 1.1% 1.9% 0.8%
電子ペン等を用いて事業者のタブレット等へ署名を行う機能を活用している 0.0% 0.5% 0.4%
その他の電子署名を利用している 0.0% 0.5% 0.0%

 利用者への説明・同意取得の方法では、電子メールやタブレットへの署名など「電磁的方法」を利用している事業所はごく僅かで、9割以上の事業所では「全て署名を取得している」という調査結果が出ています。

 なお、「今後、活用予定である」と回答した事業所は、訪問介護の8.2%、通所介護の14.6%、居宅介護支援の10.4%ありましたので、今後、「電磁的方法」を利用する事業所は少しずつ増えていくのではないかと思われます。

 

【電磁的記録等の運営基準】

 令和3年度の改定では、全サービス共通の改定事項として、次のとおり「記録の保存」や「利用者への説明・同意」に係る見直しが行われました。

○介護サービス事業者の業務負担軽減やローカルルールの解消を図る観点から、介護サービス事業者における諸記録の保存、交付等について、適切な個人情報の取り扱いを求めた上で、電磁的な対応を原則認める。

○利用者の利便性向上や介護サービス事業者の業務負担軽減の観点から、ケアプランや重要事項説明書等における利用者等への説明・同意について、書面で説明・同意等を行うものについて、電磁的記録による対応を原則認める。

・・・「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」の資料から

 改めて、「電磁的記録等」の運営基準の内容を確認しておきたいと思います。もっとも、この基準そのものは、非常に分かりにくい内容ですので、以下では、省令と基準通知、Q&Aをまとめて、かなり簡略化して解説しています。(基となる省令と基準通知、Q&Aは、文末に掲載しています。)

1 電磁的記録

○紙で「作成」「保存」していたものは、パソコンで「作成」「保存」することができる。

○パソコンでの「作成」は、事業所のパソコンのハードディスクに記録する方法などで行う。

○パソコンでの「保存」は、「①事業所のパソコンのハードディスクなどに保存する方法」か、「②紙の文書をスキャナで読み取って、事業所のパソコンのハードディスクなどに保存する方法」で行う。

2 電磁的方法

○紙で行っていた「交付」「説明」「同意」などは、事前に利用者・家族等の承諾を得て、次の方法によることができる。

○「交付」は、電子メールでの提供や、事業所のホームページからダウンロードしてもらう方法、CD-ROMでの提供などの方法で行うことができる。

・提供するデータは、利用者・家族等がプリンターで印刷できるものでなければならない。

・あらかじめ、利用者・家族等に対し、提供する方法等を示して、文書又は電子メール等で承諾を得なければならない。

○「同意」は、電子メールで利用者・家族等が同意の意思表示をした場合などが考えられる。

【編注】「タブレットの画面に電子ペンで署名を行う方法」は、基準通知には記載されていないが、上記の調査では、同意の方法に含めている。

○契約の「締結」は、電子署名を活用することが望ましい。

【補足】

  • 「電子署名」とは、一般的に、電子署名及び認証業務に関する法律第3条に規定する「電子署名」(電磁的記録に記録された情報について作成者を示す目的で行う暗号化等の措置で、改変があれば検証可能な方法により行うもの)を意味している。
  • 「電子ペンでの署名」は、この「電子署名」には該当しない。一方、民事訴訟法第228条4項に規定する「署名」に該当するかどうかは、現状では明らかになっていないが、実態として、「署名」として取り扱う事例が増えている。

 電磁的な対応のうち、パソコンでの「作成」「保存」については、事業所側の都合だけで実施することができますが、「交付」「説明」「同意」などは、事前に利用者・家族等の承諾が必要となり、事業所の都合だけで行うことはできません。

 また、「保存」では、運営基準の「記録の整備」の項目に規定された計画やサービス提供記録などは、文書での保存と同様に、完結の日(個々の利用者について、契約の解約・解除、他の施設への入所、利用者の死亡、利用者の自立等により一連のサービス提供が終了した日)から2年間(自治体によっては5年間)の保存義務が課されますので、誤って消去しないよう、パソコンのハードディスクなどに適切に保存する必要があります。

 「交付」などで、利用者・家族等の承諾が得られた場合に提供するデータは、基準では、プリンターで印刷できるものでなければならないとしか記載されていませんが、それ以前に、利用者・家族等が使用するパソコン上で、一般的に普及しているソフト(ワードやPDFなど)で画面に表示できるものでなければならないことは言うまでもありません。

 

【参考】関係省令、基準通知、Q&A 

 【1 電磁的記録】

省令第217条第1項(抜粋)

 作成、保存その他これらに類するもののうち、この省令の規定において書面(書面、書類、文書、謄本、抄本、正本、副本、複本その他文字、図形等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙その他の有体物をいう。)で行うことが規定されている又は想定されるものについては、書面に代えて、当該書面に係る電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)により行うことができる。

基準通知(抜粋)

(1) 電磁的記録による作成は、事業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法または磁気ディスク等をもって調製する方法によること。
(2) 電磁的記録による保存は、以下のいずれかの方法によること。
① 作成された電磁的記録を事業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等をもって調製するファイルにより保存する方法
② 書面に記載されている事項をスキャナ等により読み取ってできた電磁的記録を事業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等をもって調製するファイルにより保存する方法

【2 電磁的方法】

省令第217条第2項(抜粋)

 交付、説明、同意、承諾、締結その他これらに類するもののうち、この省令の規定において書面で行うことが規定されている又は想定されるものについては、当該交付等の相手方の承諾を得て、書面に代えて、電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によって認識することができない方法をいう。)によることができる。

基準通知(抜粋)

 事前に利用者等の承諾を得た上で、次に掲げる電磁的方法によることができることとしたものである。
(1) 電磁的方法による交付は、居宅基準第8条第2項から第6項まで【編注:以下の及び予防基準第49条の2第2項から第6項までの規定に準じた方法によること。
(2) 電磁的方法による同意は、例えば電子メールにより利用者等が同意の意思表示をした場合等が考えられること。なお、「押印についてのQ&A(令和2年6月19日内閣府・法務省・経済産業省)」を参考にすること。
(3) 電磁的方法による締結は、利用者等・事業者等の間の契約関係を明確にする観点から、書面における署名又は記名・押印に代えて、電子署名を活用することが望ましいこと。なお、「押印についてのQ&A(令和2年6月19日内閣府・法務省・経済産業省)」を参考にすること。

居宅基準第8条第2項から第6項(抜粋)

【編注:訪問介護の運営基準の「内容及び手続の説明及び同意」での電磁的方法】

 指定訪問介護事業者は、利用申込者又はその家族からの申出があった場合には、前項の規定による文書の交付に代えて、第5項で定めるところにより、当該利用申込者又はその家族の承諾を得て、当該文書に記すべき重要事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって次に掲げるもの(以下この条において「電磁的方法」という。)により提供することができる。この場合において、当該指定訪問介護事業者は、当該文書を交付したものとみなす。
一 電子情報処理組織を使用する方法のうちイ又はロに掲げるもの
イ 指定訪問介護事業者の使用に係る電子計算機と利用申込者又はその家族の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法
ロ 指定訪問介護事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された前項に規定する重要事項を電気通信回線を通じて利用申込者又はその家族の閲覧に供し、当該利用申込者又はその家族の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該重要事項を記録する方法(電磁的方法による提供を受ける旨の承諾又は受けない旨の申出をする場合にあっては、指定訪問介護事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルにその旨を記録する方法)
二 磁気ディスク、シー・ディー・ロムその他これらに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに前項に規定する重要事項を記録したものを交付する方法
 前項に掲げる方法は、利用申込者又はその家族がファイルへの記録を出力することによる文書を作成することができるものでなければならない。
 第2項第1号の「電子情報処理組織」とは、指定訪問介護事業者の使用に係る電子計算機と、利用申込者又はその家族の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。
 指定訪問介護事業者は、第2項の規定により第1項に規定する重要事項を提供しようとするときは、あらかじめ、当該利用申込者又はその家族に対し、その用いる次に掲げる電磁的方法の種類及び内容を示し、文書又は電磁的方法による承諾を得なければならない。
一 第2項各号に規定する方法のうち指定訪問介護事業者が使用するもの
二 ファイルへの記録の方式
 前項の規定による承諾を得た指定訪問介護事業者は、当該利用申込者又はその家族から文書又は電磁的方法により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは、当該利用申込者又はその家族に対し、第1項に規定する重要事項の提供を電磁的方法によってしてはならない。ただし、当該利用申込者又はその家族が再び前項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。

【編注】この第2項から第6項は、「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」(平成12年法律第126号)の施行に伴い追加されたもので、訪問介護だけでなく、全サービス共通に改正されたもの。(施行日:平成13年4月1日) 

Q&A 重要事項説明書の電磁的方法による提供

 認められる電磁的方法が運営基準に列挙されているが、具体的にはどのような方法を指すのか。

 使用することが認められる電磁的方法は、次のとおりである。(以下、重要事項説明書の交付を行う事業者・施設又は承諾書等の交付を行う利用申込者もしくは家族をAとし、これらの書面の交付を受ける者をBとする。)

①Aの使用に係る電子計算機とBの使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法(電子メール等を利用する方法を想定しているもの)

②Aの使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された書面に記載すべき事項等を電気通信回線を通じてBの閲覧に供し、Bの使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該事項等を記録する方法(ウェブ(ホームページ)等を利用する方法を想定しているもの)

③磁気ディスク、CD-ROMその他これらに準ずる方法により一定の事項等を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに書面記載すべき事項等を記録したものを交付する方法

 なお、①~③の電磁的方法は、それぞれBがファイルへの記録を出力することによる書面を作成する(印刷する)ことができるものでなければならない。

(h14.3.28 事務連絡 運営基準等に係るQ&A Ⅷ4)

【編注】このQ&Aは、全サービス共通のQ&Aとして位置付けられるものであるが、厚生労働省の「介護サービス関係Q&A」では、なぜか「施設サービス共通」に区分されている。(いわゆる「緑本」(介護報酬の解釈3 QA・法令編 令和3年4月版)でも、「施設サービス共通」のp401~402に掲載。)