介護サービス基準のパズル

介護サービスの基準・解釈通知・Q&Aを読み解く ~まずは「訪問介護」の基準から~

管理者の配置基準「常勤専従」の見直しの動きと現在の基準の疑問

 「介護保険制度の「令和6年度改定」に向けた動き【1】」で、既に触れたことですが、令和4年12月にまとめられた、社会保障審議会介護保険部会の「介護保険制度の見直しに関する意見」の中では、以下の「管理者等の常駐等についての検討」が含まれています。 

○既に訪問介護において人手不足が指摘されているように、在宅サービスの人材確保は急務であり、ICTの活用も念頭に、より働きやすく効率的なサービス提供の在り方を検討する必要がある。「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」(令和4年6月3日デジタル臨時行政調査会)では、デジタルの力を活用しながら、生産年齢人口が減少する中での人手不足の解消や生産性向上等の観点から、介護サービス事業所における管理者の常駐等について見直しの検討が提言されているが、これらも踏まえ、各サービスにおける管理者等の常駐等について、必要な検討を進める必要がある。

 このことについて、現時点では、社会保障審議会介護給付費分科会での検討はまだ行われていませんが、令和5年6月1日にまとめられた、規制改革推進会議の「規制改革推進に関する答申」で、「介護サービスにおける人員配置基準の見直し」についての実施事項が次のとおり盛り込まれていましたので紹介しておきます。

【a:令和5年度検討・結論、b:令和5年度措置】
a 厚生労働省は、介護サービス種別ごとの管理者に係る人員配置基準について、経営能力を持つ人材には限りがあることを踏まえつつ、様々な介護サービスを行う複数の事業所を効率的に運営し、かつ、運営の生産性向上や職員のやりがいの最大化を図る観点から、同一の管理者が複数の介護サービス事業所を管理し得る範囲の見直しについて、社会保障審議会介護給付費分科会等での意見を聴き、結論を得る。その際、少なくとも次の事項の検討を含むものとする。  
・主として管理業務を行う管理者について、例えば、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準において、管理業務に支障がないと認められる場合に「同一敷地内にある他の事業所、施設等の職務に従事することができる」とされていることも踏まえ、サービス種別にかかわらず、例えば、同一・隣接又は近接の敷地に所在する複数の事業所について、管理者が兼務可能な範囲の見直し等を検討する。

b 厚生労働省は、介護サービスの人員配置基準に係る地方公共団体による独自ルールの有無・内容等を整理し、公表することについて検討する。  

 上記の文中に「」が付いていますが、これは、答申の中で「「※」を付した事項については、厚生労働省など関係府省において成案を得て決定を行う前に規制改革推進会議で議論等を行うことを予定している」と説明されています。

 管理者の配置基準の見直しの方向性としては、以下のような内容が想定されます。

  • 事業所・施設に常駐することの緩和(テレワーク、オンライン会議システムの活用など)
  • 複数の事業所・施設(同一敷地内・隣接・近接など)の管理者・従業者を兼務することができる範囲の拡大

 現状では、特に「管理者の兼務」については、厚生労働省からその詳細な取扱いが示されていないことなどから、自治体ごとに、その取扱いが微妙に異なっている実態がありますので、明確な考え方が示されることに期待するものです。

 そもそも、厚生労働省が定める「管理者の配置基準」は、自治体が条例で基準を定めるに当たっては「従うべき基準」と位置付けられるものであって、必ず適合しなければならないものです。

 厚生労働省の基準に従う範囲内で、地域の実情に応じた内容を定めることは許容されてはいるものの、異なる内容を定めることまでは許されていません。

 条例で厚生労働省の基準と同様に規定しているとしても、その基準の取扱いの実態として、管理者の配置基準の解釈が自治体によって異なっているのは重大な問題と思われます。

 以下では、訪問介護を例に、現時点での管理者の配置基準と疑問点について、整理しておきたいと思います。

 

【管理者の配置基準(訪問介護)】

■原則(運営基準第6条)

 事業所ごとに「常勤」「専従」の配置

「常勤」の定義(運営基準第2条の「定義」に係る基準通知)

(原則)

 当該事業所(A事業所)における勤務時間が、A事業所の就業規則などで規定する常勤の従業者が勤務すべき労働時間数(以下の説明を分かりやすくするため「週40時間」とする)に達していること。

(特例)

 同一法人がA事業所に併設するB事業所の職務であって、A事業所の職務と「同時並行的に行われることが差し支えない」職務を兼務する場合、「A事業所の勤務時間+B事業所の勤務時間=週40時間」であれば、常勤の要件を満たす。

 例えば、同一法人によって行われる指定訪問介護事業所と指定居宅介護支援事業所が併設されている場合、それぞれの管理者を兼務している者は、その勤務時間の合計が所定の時間に達していれば、常勤要件を満たす。

★「常勤」の特例の取扱いに係る疑問点

①「同時並行的に行われることが差し支えない」職務の兼務とは、「管理者」と「管理者」の兼務以外にどういったものがあるのか。

  • 一般的に、「管理者」と「利用者に直接サービスを提供する従業者」の兼務は、同時並行的に行われることに支障があると考えられる。
  • 「デスクワークを中心とした職務」同士を兼務する場合などが想定される。 

②「同時並行的に行われることが差し支えない」職務を兼務する場合であっても、勤務表でそれぞれの職務に従事する勤務時間を明確に区分する必要があるのか。あるいは、区分しなくても差し支えないのか。

  • 同時並行的に行われることに支障がある兼務の場合、勤務表でそれぞれの職務に従事する勤務時間を区分して記載することとされている。
  • 「同時並行的に行われることが差し支えない」職務を兼務する場合、そもそも時間を明確に区分してそれぞれの職務に従事している訳ではないため、勤務表で勤務時間を区分するのは困難な場合が少なくない。
  • なお、管理者によっては、午前はA事業所の管理者の職務に従事し、午後はB事業所の管理者の職務に従事するなど、勤務時間を明確に区分している場合もある。

③同一法人がA事業所に併設する「B事業所」については、介護保険サービス事業所に限られるのか。あるいは、「管理者」に係る基準通知での兼務の例に示されているように、「事業の内容は問わない」のか。

④「併設」する事業所には、「管理者」に係る基準通知での兼務の例に示されているように、「同一敷地内や隣接する敷地内にある」事業所も含まれると理解していいのか。

⑤兼務が可能な併設事業所の数に上限はあるのか。

⑥本務のA事業所の管理者としての勤務時間が、例えば週2時間程度であっても、合計の勤務時間が40時間であれば、A事業所の管理者としての常勤要件を満たすと考えていいのか。

  • 「管理者」に係る基準通知にある「当該事業所の管理業務に支障がないとき」といった限定的な取扱いは示されていない。 

「専従(専ら従事する)」の定義(運営基準第2条の「定義」に係る基準通知)

(原則)

 当該従業者の当該事業所における勤務時間を通じて、当該サービス以外の職務に従事しないこと。

■特例①(運営基準第6条、基準通知)

「管理業務に支障がないとき」は、他の職務の兼務が可能。

(例示)

【1】同じ事業所での「訪問介護員等」の兼務【編注:特例②の「サービス提供責任者(常勤・非常勤)」の兼務の場合は除く】

【2】管理業務に支障がないと認められる範囲内(同一敷地内・道路を挟んで隣接など)に他の事業所がある場合に、その事業所の「管理者」又は「従業者」との兼務【編注:「管理者」との兼務の取扱いは、上記の「「常勤」の特例の取扱い」が適用されると考えられる】

(【2】の補足)

【2-2】 兼務する他の事業所の事業の内容は問わない。

【2-3】 「a) 管理すべき事業所数が過剰であると個別に判断される場合」や、「b) 併設する入所施設で入所者に対しサービス提供を行う看護・介護職員と兼務する場合」などは、管理業務に支障がある。

【2-4】 b)で、施設での勤務時間が極めて限られている職員である場合など、個別に判断の上、例外的に認める場合があっても差し支えない。

★【1】の取扱いに係る疑問点

①「訪問介護員等(サービス提供責任者ではない者)」に従事する勤務時間が何時間程度までならば、管理業務に支障がないと判断できるのか。

  • 事業所の規模や利用者数、訪問介護員等の従業者数、日々のサービス提供状況などによって、管理業務に支障が生じる場合は様々であることが想定されるため、一律に判断基準を定めるのは困難か。

②「管理者」と「訪問介護員等(サービス提供責任者ではない者)」の勤務時間は、勤務表でそれぞれ明確に区分しなければならないのか。

  • 「管理者」と「訪問介護員等(サービス提供責任者ではない者)」の兼務は、同時並行的に行われることに支障があるため、原則として、勤務時間は明確に区分する必要があると考えられる。
  • しかし、小規模の事業所では、プレイングマネージャーとして、管理業務の傍ら訪問介護員等の職務に従事している実態があり、明確に勤務時間を区分するのが現実的ではない場合がある。

★【2】の取扱いのうち、「他の事業所の「従業者」との兼務」に係る疑問点

①他の事業所の「従業者」のうち、「利用者に直接サービスを提供する従業者」などとの兼務は、同時並行的に行われることに支障があると考えられるため、「「常勤」の特例の取扱い」のように、それぞれの勤務時間を合計して常勤要件の適否を判断する取扱いは適用されないと考えてよいか。

②そうであるならば、例外的に兼務を認める場合には、「利用者に直接サービスを提供する従業者」として従事する勤務時間は極めて限定されると考えられるが、どの程度の勤務時間までであれば許容されるのか。

 

■特例②(運営基準第5条に係る基準通知)

 サービス提供責任者(常勤・非常勤)の兼務

★疑問点

①「管理者」と「常勤のサービス提供責任者」の兼務は、上記の「常勤」の特例の取扱いと同様に、「同時並行的に行われることが差し支えない」職務を兼務するものと考えてよいか。

  • 「常勤専従」の管理者が、「常勤で訪問介護に専従」のサービス提供責任者を兼務することを認めている。
  • 運営基準第28条の「サービス提供責任者の責務」に係る基準通知で、サービス提供責任者は、「訪問介護に関するサービス内容の管理」を行う者と位置付けられており、そもそも管理的な業務の一翼を担っている。

②「管理者」と「常勤のサービス提供責任者」のそれぞれの勤務時間は、勤務表で明確に区分する必要があるのか。あるいは、区分しなくても差し支えないのか。

  • 「同時並行的に行われることが差し支えない」職務を兼務する場合、そもそも時間を明確に区分してそれぞれの職務に従事している訳ではないため、勤務表で勤務時間を区分するのは困難な場合が少なくない。

 

 令和6年度改定に向けて、今後、厚生労働省から、「管理者の兼務」の取扱いについての考え方が示されていくことになるかと思いますが、上記の疑問点が解消されるような内容になっていることを期待します。

 また、令和6年4月からは、指定申請の際に添付する「従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表」は、原則として、厚生労働省が定める様式を使用することになります。同様に、運営指導の実施に当たって、事前に事業所から提出を求める「勤務表」についても、この様式を使用していくことになると思われます。

 このため、厚生労働省が示す「従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表」の記入方法の中でも、兼務の場合の取扱いや勤務時間の記載方法などについて、詳しく説明が行われる必要があります。

 

(補足)
 管理者の配置基準についての疑問点をまとめる中で、兼務の適否を判断するに当たっての考え方が少し見えてきましたので、令和6年度改定版の「解説 訪問介護の基準」では、そのことについて追記したいと思います。