介護サービス基準のパズル

介護サービスの基準・解釈通知・Q&Aを読み解く ~まずは「訪問介護」の基準から~

管理者業務「テレワーク解禁」と言っても

 令和5年9月5日付けの介護保険最新情報vol.1169「情報通信機器を活用した介護サービス事業所・施設等における管理者の業務の実施に関する留意事項について」で、管理者業務のテレワーク(情報通信機器を活用した遠隔での業務の実施)が解禁されました。

 この見直しは、デジタル臨時行政調査会が令和4年12月に決めた「デジタル原則を踏まえたアナログ規制の見直しに係る工程表」の中で、人員配置での「常駐規制(物理的に常に事業所に留まることを求めている規制)」の見直しについて宿題が出ていたことから、まず、「管理者」でのテレワークの取扱いが明確化されたものです。

 管理者以外の「他の職種」でのテレワークの取扱いについては、追って、令和6年3月末までに示されることになっています。

 

 今回、厚生労働省が通知した「管理者業務のテレワークの考え方」は、余り中身がない内容ですが、次のとおりです。

【1】当該事業所の「管理上支障が生じない範囲」内で、テレワークは可能

【2】「管理上支障が生じない範囲」の考え方

1) 管理者がテレワークを行い、事業所を不在とする場合も、管理者の責務を管理者自らが果たす上で支障が生じないよう体制を整えておくこと。管理者以外の従業者に過度な負担をかけないこと。

(意訳) 管理者がテレワークで事業所にいない場合も、管理者の責務は管理者が自ら果たすこと。間違っても、ほかの従業者に仕事を押し付けないこと。

2) 利用者・従業者と管理者の間で適切に連絡が取れる体制を確保すること。

(意訳) 管理者がテレワークで事業所にいない場合も、利用者・従業者からの連絡はスルーしないこと。利用者・従業者への連絡も、後手後手にしないこと。

3) 事故発生時、利用者の状態の急変時、災害の発生時等、管理者がテレワークを行う場合の緊急時の対応について、あらかじめ対応の流れを定めておくとともに、必要に応じて管理者自身が速やかに出勤できるようにしておくこと。

(意訳) 何かあったら、管理者は事業所に直行し陣頭指揮を執ること。

4-1) 管理者としてテレワークを行うことができる日数・時間数については、介護サービスの種類や介護事業所等の実態等に応じて、各事業者において個別に判断すること。

(意訳) テレワークが可能な日数・時間数については、客観的な基準は決められないので、各事業所の判断で問題ない。

4-2) 他の職種を兼務する管理者がテレワークを行う場合、管理者以外の各職種の人員配置基準に違反しないようにすること。

(意訳) 管理者以外の他の職種のテレワークの取扱いは、まだ決まっていないので、勝手なことはしないこと。

5) 上記について、利用者・家族、都道府県、市町村等から求めがあれば、適切かつ具体的に説明できるようにすること。

(意訳) 管理者が事業所にいないで、テレワークを行っていることで、苦情が出たら、ちゃんと説明すること。

【3】テレワークの環境整備

1) 個人情報の外部への漏洩防止や、外部からの不正アクセスの防止のための措置を講ずること。
2) 第三者が情報通信機器の画面を覗き込む、従業者・利用者との会話を聞き取るなどにより、利用者やその家族に関する情報が漏れることがないような環境でテレワークを行うこと。
3) 利用者やその家族に関する情報が記載された書面等を自宅等に持ち帰って作業する際にも、情報の取扱いに留意すること。
4) テレワーク実施者の適切な労務管理等について、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を参照すること。

 

 厚生労働省が示した「管理者業務のテレワークの考え方」は、夏休みの宿題を夏休み最終日に取り急ぎまとめた感じで、当たり前のことをもっともらしく表記しただけのような印象があります。

 また、運営指導での確認項目には、管理者の常勤専従の基準は含まれますが、管理者の責務は含まれていませんので、通常の運営指導で、管理者が行うテレワーク業務について、その内容の適合状況まで確認することは、ほとんどないのではないかと思われます。

 仮に、その適合状況を確認するにしても、厚生労働省が示す「テレワークの考え方」は、抽象的なものであり、客観的にその適否を判断する基準がないため、余程のことがない限り、指導は難しいと思います。

 「テレワーク解禁」と言っても、テレワークが可能な事業所は、中規模・大規模の事業所や法人であって、小規模の事業所には余り関係のない話かもしれません。

 小規模の事業所で、他の職種も兼務しているような管理者については、事業所の現場で、日々業務に追われているというのが実態ですので、そもそもテレワークという選択肢はありえないのではないかと思います。

 今後、中規模・大規模の事業所・法人で、管理者のテレワーク業務が普及していくことが予想されますが、現時点で懸念されることは、次の2点です。

  1. 中規模・大規模の事業所・法人で、隣接しない他の事業所の管理者も兼務するような管理者が、法人本部や中核となる事業所で業務を行うことが常態化すること
  2. これに伴い、管理業務で使用する書類などが、これまで以上に、法人本部・中核となる事業所に集約すること

 2に関連して、書類の保管場所について、運営基準では何ら規定していませんが、次の居宅介護支援の基準通知にあるように、暗黙の了解事項として、原則として事業所内で保管することが想定されています。

 もっとも、これも、管理者が法人法部を拠点にテレワークを行っている訳だから、法人本部で保管することに何ら問題はないのではないかという反論も出てきそうです。

(居宅介護支援の運営基準第19条「勤務体制の確保」に係る通知)

 指定居宅介護支援事業所ごとに、原則として月ごとの勤務表を作成し、介護支援専門員については、日々の勤務時間、常勤・非常勤の別、管理者との兼務関係等を明確にする。
 なお、当該勤務の状況等は、管理者が管理する必要があり、非常勤の介護支援専門員を含めて当該居宅介護支援事業所の業務として一体的に管理されていることが必要である。従って、非常勤の介護支援専門員が兼務する業務の事業所を居宅介護支援の拠点とし独立して利用者ごとの居宅介護支援台帳の保管を行うようなことは認められないものである。

※居宅サービスの運営基準では、類似する通知は示されていない。

 事業所の規模によって、管理者業務についてテレワークで対応が可能な事業所と、対応ができない事業所の違いが出てくる理由は、そもそも、管理者が行う実際の業務が、中規模・大規模の事業所と小規模の事業所で異なっているからだと思います。

 このことについては、別の記事に記載することにします。