介護サービス基準のパズル

介護サービスの基準・解釈通知・Q&Aを読み解く ~まずは「訪問介護」の基準から~

「基準省令によらず、通知のみで義務付けていた通知」の改正

 この1月27日に、居宅介護支援の運営基準に係る地裁判決を例に、「基準省令によらず、通知のみで義務付けること」の記事を書きましたが、3月8日に掲載された厚生労働省「全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議」の会議資料を見ると、該当する運営基準「内容及び手続の説明及び同意」の部分の通知改正が予定されています。

 別冊資料(介護報酬改定)に、報酬告示の改正案、基準省令・報酬告示に関する通知案が示されていますが、介護報酬改定以外の資料の方でも、「認知症施策・地域介護推進課」の資料p66に、特にこのことが書かれています。なお、改正理由の説明はありません。

 改正内容は以下のとおりですが、分かりやすくするため、元の文章を加工し、簡潔な記載にしています。

 

◆基準省令と通知で、利用者への説明を求めている項目

Aー1
利用者は複数の指定居宅サービス事業者等を紹介するよう求めることができること

Aー2
居宅サービス計画原案に位置付けた指定居宅サービス事業者等の選定理由の説明を求めることが可能であること


前6月間に作成された居宅サービス計画の総数のうちに訪問介護、通所介護、福祉用具貸与及び地域密看型通所介護(以下「訪問介護等」という。)がそれぞれ位置付けられた居宅サービス計画の数が占める割合、前6月間に作成された居宅サービス計画に位置付けられた訪問介護等ごとの回数のうちに同一の指定居宅サービス事業者又は指定地域密着型サービス事業者によって提供されたものが占める割合

 

◆指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)

(内容及び手続の説明及び同意)第4条第2項

(改正前)
事業者は、あらかじめ、Aー1等につき説明を行い、理解を得なければならない。


(改正後)
事業者は、あらかじめ、Aー1等につき説明を行い、理解を得なければならない。


(補足)
 Bは、令和3年度改定で新たに義務化された項目であったが、令和6年度改定では努力義務に緩和され、第3項で規定されることになったもの。

 

◆指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準について(課長通知)

3 運営に関する基準 (1)内容及び手続きの説明及び同意 

(改正前)
Aー1や、Aー2等につき十分説明を行わなければならない。なお、この内容を利用申込者又はその家族に説明を行うに当たっては、理解が得られるよう、文書の交付に加えて口頭での説明を懇切丁寧に行うとともに、それを理解したことについて必ず利用申込者から署名得なければならない

(改正案)
Aー1等につき十分説明を行わなければならない。なお、この内容を利用申込者又はその家族に説明を行うに当たっては、併せて、Aー2につき説明を行うとともに、理解が得られるよう、文書の交付に加えて口頭での説明を懇切丁寧に行うことや、それを理解したことについて利用申込者から署名得ることが望ましい

 「Aー2の説明」や「文書の交付」「署名」については、義務付けから、望ましい取組みに緩和されました。

 なお、第1項に規定する重要事項説明書の「同意」では、その方法は「書面によって確認することが望ましい」と規定しているだけですので、敢えて「署名」を残す必要があったのかは疑問があります。

 

◆指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(訪問通所サービス、居宅療養管理指導及び福祉用具貸与に係る部分)及び指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について(課長通知)

第3 居宅介護支援費に関する事項 
6 居宅介護支援の業務が適切に行われない場合

(改正前)
Aー1Aー2について文書を交付して説明を行っていない場合には、減算する。

(改正案)
Aー1について説明を行っていない場合には、減算する。

 「Aー2の説明」「文書の交付」は、減算の要件から外されました。Bは努力義務に緩和されたので、削除されたもの。

 

【まとめ】

 これで、この運営基準については、基準省令での義務付けの範囲を超えて、通知の中で新たな義務を課すことがなくなりました。

 厚生労働省は、令和6年度の改定事項の中で、自治体に対して「人員配置基準に係るいわゆるローカルルールについて、あくまでも厚生労働省令に従う範囲内で地域の実情に応じた内容とする必要があること等を求める」としておりますが、今回の案件は、厚生労働省の課長通知というナショナルルールの方に問題があったものです。

 改正理由は、地裁判決にあると思いますが、当方からも、以下のとおり報酬告示に係るパブコメで、意見を出しておりました。

 

◆「令和6年度介護報酬改定に伴う関係告示の一部改正等に関する御意見の募集について」のパブコメで提出した意見

【5】指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第20号) 別表 居宅介護支援費 イ 注3
(今回の改正に含まれない項目であるが、通知改正が必要ではないかと思われるもの)

 運営基準減算が適用となる基準については、厚生労働大臣が定める基準(平成27年厚生労働省告示第95号)第八十二号に規定している。
 同号で、指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準第4条第2項に定める規定に適合していない場合に減算する旨規定しているが、同項で説明が必要な項目として規定していない「利用者は居宅サービス計画に位置付けた指定居宅サービス事業者等の選定理由の説明を求めることができること」が、留意事項通知には記載されている。
 また、同項では説明の手段は規定していないが、通知では、「文書を交付して説明を行う」こととしている。
 いずれも、基準省令での義務付けの範囲を超えて、通知の中で新たな義務を課しているものである。
 「国民の権利・義務に影響を及ぼす内容は、法律によることが必要であるため、法律によらず、通知・通達のみをもって、国民の権利・義務に影響を及ぼすことは、それ自体が無効」(平成23年7月12日・総務省における今後の通知・通達の取扱い)とされているため、当該通知は見直しが必要ではないか。
 基準省令の解釈通知「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準について」の第2 3 (2) も同様である。
 このほか、基準第4条第2項についての解釈通知では、基準省令に規定していない「利用申込者からの署名」も義務付けている。
 これも、基準省令での義務付けの範囲を超えたものであるとともに、第1項に規定する重要事項の説明についての通知で、「同意」の方法は「書面によって確認することが望ましい」と規定していることと比べても著しく均衡を欠いている。