介護サービス基準のパズル

介護サービスの基準・解釈通知・Q&Aを読み解く ~まずは「訪問介護」の基準から~

特定事業所加算「重度要介護者等対応要件」で「たんの吸引等」の利用者を算入できる事業者

(3月29日一部修正)

 平成23年の社会福祉士及び介護福祉士法の改正によって、平成24年度からは、一定の介護職員も一定の条件下で、医行為として整理されている「たんの吸引等」を行うことが認められています。

 該当する介護職員は、次のaとbです。

a 介護福祉士登録証に「喀痰吸引等行為」の付記登録を受けた介護福祉士

b 認定特定行為業務従事者認定証の交付を受けた介護職員

 一方、介護サービス事業所として、「たんの吸引等」の業務を行うためには、都道府県に申請し登録を受ける必要があり、事業者としては、次のAとBに区分されます。

A 登録喀痰吸引等事業者(同法第48条の3第1項)
  「たんの吸引等」を行う介護職員は、上記のa
  ・訪問介護事業所の登録事業所数 133(令和5年4月1日現在)  

B 登録特定行為事業者(同法附則第27条第1項)
  「たんの吸引等」を行う介護職員は、上記のb
  ・訪問介護事業所の登録事業所数 4,626(令和5年4月1日現在)

 

 さて、訪問介護の特定事業所加算の「重度要介護者等対応要件」に、「たんの吸引等」が必要な利用者が追加になったのは、平成24年度改定のときで、告示では次のとおり規定しています。

社会福祉士及び介護福祉士法施行規則第1条各号に掲げる行為を必要とする者(当該指定訪問介護事業所が社会福祉士及び介護福祉士法附則第20条第1項【編注】の登録を受けている場合に限る。

【編注】社会福祉士及び介護福祉士法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係告示の整理に関する告示(令和4年厚生労働省告示第128号)で、「附則第27条第1項」に改正

 平成24年度当時、介護福祉士は、上記bに該当する場合を除き、まだ「たんの吸引等」を行うことができなかったため、この規定で問題はありませんでした。

 介護福祉士による「たんの吸引等」が実際に可能となったのは、平成28年度からで、また、上記Aの「登録喀痰吸引等事業者」の申請の受付も平成29年度から始まっています。

 したがって、平成29年度以降は、「たんの吸引等」を行う事業者は、「B 登録特定行為事業者(同法附則第27条第1項)」だけでなく、「A 登録喀痰吸引等事業者(同法第48条の3第1項)」が追加されています。

 しかし、その後も、上記の規定は改正されておらず、また、今回の介護報酬の改定に係るパブコメで、当方から意見を出しましたが、修正はされませんでした。

 「たんの吸引等」を行う事業者を、附則に規定する「B 登録特定行為事業者」に限定し、本則に規定する「A 登録喀痰吸引等事業者」を敢えて除外する理由は、分かりません。

 通知では、AやBの区分の記載はなく、「登録を受けているものに限られる」とだけしか書かれていません。本来の解釈通知であるならば、告示でAを除外しているのであれば、そのことを明記し注意喚起すべきと思いますが、そうではなく、逆に、どちらの登録事業所でも構わないとも読めてしまいます。

 特定事業所加算の「重度要介護者等対応要件」の趣旨からは、AとBいずれの事業所も該当すると考えるのが、常識的な判断ではないかと思いますが、どうでしょうか。

 

 類似した規定例として、訪問看護費の「看護・介護職員連携強化加算」がありましたので、その加算の規定を確認したところ、平成30年度に次のとおり改正されていました。

(改正前)
指定訪問看護事業所が社会福祉士及び介護福祉士法附則第20条【編注:当時の条番号】第1項の登録を受けた指定訪問介護事業所と連携し、当該事業所の訪問介護員等が当該事業所の利用者に対し同項に規定する特定行為業務を円滑に行うための支援を行った場合は、1月に1回に限り所定単位数を加算する。

(改正後)
指定訪問看護事業所が、社会福祉士及び介護福祉士法第48条の3第1項の登録又は同法附則第20条【編注:当時の条番号】第1項の登録を受けた指定訪問介護事業所と連携し、当該事業所の訪問介護員等が当該事業所の利用者に対し社会福祉士及び介護福祉士法施行規則第1条各号に掲げる医師の指示の下に行われる行為を円滑に行うための支援を行った場合は、1月に1回に限り所定単位数を加算する。

 また、改めて、社会保障審議会介護給付費分科会の「平成24年度介護報酬改定に関する審議報告」(平成23年12月7日)を確認したところ、次のとおり書かれていました。

 介護職員によるたんの吸引等の実施について社会福祉士及び介護福祉士法の一部改正によって、介護福祉士及び研修を受けた介護職員等が、登録事業所の事業の一環として、医療関係者との連携等の条件の下にたんの吸引等を実施することが可能となったことに伴い、介護老人福祉施設及び訪問介護の既存の体制加算に係る重度者の要件について、所要の見直しを行う。 
 また、介護職員によるたんの吸引等は、医師の指示の下、看護職員との情報共有や適切な役割分担の下で行われる必要があるため、訪問介護事業所と連携し、利用者に係る計画の作成の支援等を行う訪問看護事業所について評価を行う。 

 したがって、 「たんの吸引等」を行う事業者は、BだけでなくAも含めるのが、審議会の考えであったことは明らかです。

 このため、訪問介護の特定事業所加算に係る「重度要介護者等対応要件」での「たんの吸引等」を行う事業所の規定は、審議会の答申に沿っておらず、また、訪問看護の関連する加算「看護・介護職員連携強化加算」とも整合性が取れていないものとなっています。

 平成30年度改定の時点で、「看護・介護職員連携強化加算」の告示改正に加えて、特定事業所加算に係る「重度要介護者等対応要件」の告示改正を行うべきところ、現時点まで改正が行われていないのが現状です。

 

【介護報酬の改定に係るパブコメで、当方から提出した意見】

【1】厚生労働大臣が定める基準(平成27年厚生労働省告示第95号) 「三 訪問介護費における特定事業所加算の基準」

 「イ 特定事業所加算(1)の基準」の(7)(一)で、たんの吸引等の行為を必要とする者を算入できる事業所として、社会福祉士及び介護福祉士法附則第27条第1項の登録を受けた「登録特定行為事業者」に限定しているが、同法第48条の3第1項の登録を受けた「登録喀痰吸引等事業者」をなぜ除外しているのか。
 平成28年度からは、介護福祉士によるたんの吸引等の実施は可能となっており、介護福祉士がたんの吸引等を行う事業者である、同法第48条の3第1項の登録を受けた「登録喀痰吸引等事業者」も含まれると思われる。
 類似する規定例として、訪問看護費の「看護・介護職員連携強化加算」では、連携先の訪問介護事業所については、平成30年度の改正で、「社会福祉士及び介護福祉士法附則第20条【編注:当時の条番号】第1項の登録を受けた訪問介護事業所」に、「同法第48条の3第1項の登録を受けた訪問介護事業所」を追加している。